首席騎士様は、罵詈雑言すら受け入れる
「ふん、母上はいつもリカルドに甘いのだ!」
憤慨したみたいに怒るお兄さん。つり上がった眉を見て理解した。そうか、お兄さんはリカルド様に焼き餅をやいているんだなぁ、きっと。子供の頃からリカルド様がお母さんに庇われるのを、こうして苦々しくみていたに違いない。
子供か。
「こやつが首席だ? ハン、リカルドごときに後れを取るとは、魔法を使う輩のふがいなさが目に浮かぶなあ!」
「ソルト、お客人の前で失礼でしょう。口を慎みなさい」
「リカルドの学友だと聞いたが……リカルドのような騎士にもなれぬ貧弱者に首席を許すとは、才能豊かな魔術師が集う学園だと聞いていたが、たかが知れる」
お母さんから止められても、お兄さんの暴言はやまない。あたしをチラリと一瞥して、そう言った。
あたしがその魔法学園でさらに万年最下位のある意味貴重な人材だと知れたら、このお兄さんにどんだけバカにされるかわかんないなぁ。しかし、人間性ではあたしの方がマシだって断言できる。
「ソルトったら、いつも言っているでしょう? リカルドは騎士になれなかったわけではないわ。魔法の方がより適性があっただけですもの」
「そうだな、騎士になれるだけの技量はあろうな」
「父上まで!」
「事実だ」
地団駄を踏みそうにブルブル震えているお兄さんは憎々しげにリカルド様を睨み付ける。それでもリカルド様は慣れているのか、無表情でこう言った。
「兄さんに敵うような技量がないことは重々身にしみています」
うっわ、明らかに誇らしげな顔してるよお兄さん。むかつくなぁ、はっきり言ってあのイヤミなもと学年主任よりももっともっと遙かにむかつくわ!
お兄さんはいらつくあたしには見向きもせずに、急に上機嫌で破顔する。
「分かっているならいい。俺に勝てるようになってから偉そうな顔はするんだな」
「リカルド様の方が強いもの……」
思わず、口からそんな言葉が飛び出ていた。
だって、だって、悔しいじゃない。
リカルド様がどうしてあんなに自信なさげなのか、分かった気がする。こうやって年がら年中マウントとる人に貶められて生きてきたら、そりゃ刷り込みにもなるわよ。
「娘、何か言ったか?」
「剣術だけならお兄さんの方が強いのかも知れませんね。でも、総合力は絶対にリカルド様の方が上だわ」
「なに!?」
「魔法も、剣術も手を抜かずにどっちも頑張ってきたリカルド様だから、強いんだって言ったんです」
我慢できなかった。リカルド様のご自宅にせっかくお呼ばれしたんだもん。皆さんに気に入って欲しいと思ってたけどもう無理だ。
こんなにリカルド様のことをバカにされて、黙っておける筈がないじゃない。