首席騎士様は、慌てふためく
「うわっっっ!?」
驚きすぎて後ろに飛び退きたかったんだろうけど、そこは残念ながら背後に巨大な豆の木の幹があるわけで、思いっきり後頭部をぶつけていた。鈍い音がしたから、これは相当痛いだろう。
「く……っ」とか言いながら後頭部を押さえてるのが地味に可愛いんだけど。
「ユーリン、なぜ……」
あたしを見上げたリカルド様はなんと涙目だった。
なにこれ、レアすぎない!?
絶対にめちゃめちゃ珍しい光景に、内心テンションが爆上がりするけれど、そんなことはおくびにも出さず、あたしは至極冷静に答えを口に出した。
「なぜって菜園のこのあたりはあたしのスペースですし」
「いや、それは知っているが……ジェードは? 会わなかったか?」
「さっき会いましたよ。なんかめっちゃ励まされました」
なんだ、知ってたんだ。ここがあたしの菜園だって。そしてリカルド様を探してると必ずといっていいほどジェードさんに会うのは、やっぱりリカルド様の差し金なわけね。
「そ、そうか。魔力制御は習えただろうか」
「……」
思わずジト目で見てしまった。あたしが魔力制御で困ってるのも知っていて、会ってもくれずに逃げ隠れしていたわけか。
「いいえ、習いませんでしたけど」
「なぜだ」
「ていうかなんでリカルド様がそれを気にしてるんです? 学園に戻ってきてからこっち、十日も会わなかったっていうのに」
「そ、それは……か、かぜの噂で、魔力制御に苦労していると聞いてだな」
「知ってたんだ。その割に探しに来てもちっとも会えないし。教えてくれるって言ったのに」
思わず恨み言が口をついて出るのを抑えられない。教えてくれるっていうのだって単なる厚意なんだから本来恨み言を言う資格なんかないって分かってるのに。
でも、十日も不安な気持ちでリカルド様を探し続けただけに、気持ちが抑えられなかった。
第一、なんで。
「なんでジェードさんに魔力制御を習うって話になるんですか……!」
「そ、それは」
口ごもってばっかりだな、リカルド様。
「そんなに、あたしに会うのがイヤだったんですか。ジェードさんに押しつけるくらいに」
「ち、違う! 君はジェードに教えて貰った方が嬉しいだろうと思って」
「なんで!? あたしはリカルド様に教えて欲しいのに!」
その言葉を聞いた途端、リカルド様は鳩が豆鉄砲をくらったみたいな、ぽかんとした顔をした。ジェードさんが言ってたとおり、本当にリカルド様はあたしがジェードさんを好きだって思ってるんだな。