【首席騎士:リカルド視点】彼女のためにできること②
小さく息をついて、俺は再び念話の回路を回復する。
「ジェード、魔力の制御に関してはお前の方がうまい。それにそもそも教え方も丁寧で教え慣れているだろう? お前から教えを請いたいと常日頃から長蛇の列ができているのは知っている」
「まぁ、そうだけど……」
「忙しいのは重々理解しているが、頼まれてはくれないだろうか。ジェードはたしか教員を目指しているのだろう? 彼女のような症例は珍しい。お前にとっても教えることは無駄ではないと思うが」
「お前、ユーリンちゃんのことになると突然よくしゃべるよね」
「そ、そうか?」
ジェードの忍び笑いに、思わず心臓が跳ね上がった。俺はいつもと態度が違うのだろうか。
「まあ、いいよ。リカルドの頼みだからね。そのかわり今度、転移を教えてくれよ」
「! それくらいなら問題ない。いつでも教えよう」
「交渉成立だな。じゃあ、ユーリンちゃんのことは任せといて」
「ありがとう、ジェード。恩に着る」
機嫌良く笑うジェードの様子に、俺はやっと安堵した。こうしてユーリンと話す機会が増えれば、きっと彼女の良さも自然に分かってくれるだろう。
「……む」
足取り軽く歩いていたら、ふと気がつくとユーリンの菜園に無意識に辿り着いていた。
心の中で舌打ちする。俺は意外と女々しい男だったらしい。ユーリンのことを考えていると、こうしていつの間にか彼女の菜園に来てしまっていることが多々あるのだ。
まったくもって情けない。
ジェードとの仲を取り持つために自ら彼女と距離を置いたというのに、このていたらく。
頭を抱えつつ俺は菜園へと足を踏み入れる。そこには、ユーリンの濃厚な魔力の残滓が漂っていた。
懐かしい、討伐演習でもこうして植物を精力的に育てていたな。瑞々しい野菜が美味かった。この魔力の残りっぷりからするに、きっとここで魔力制御の特訓を行っているんだろう。
苦手な魔力制御を訓練するのに、植物の成長促進を通じて行っているあたり、なんとも彼女らしい。つやつやと元気のいい葉っぱと、巨木かと見まごうほどに育った豆の蔦を思わずそっと撫でる。
ここは彼女の魔力に満ちていてじんわりと心が暖かく、癒やされるような気持ちになるものだから、こうして沈んだときについつい足が向いてしまうのだ。実際に日当たりもいいユーリンの菜園は、ぽかぽかと暖かい陽気で離れがたい。
このごろなぜか眠りが浅いせいで、若干疲れがたまっている。もう少しだけ、ここで癒やされてもいいだろうか。
俺はユーリンが育てた巨大豆の木の幹に寄りかかり、ゆっくりと目を閉じた。