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【首席騎士:リカルド視点】彼女のためにできること①

また、ユーリンが特別棟に来ている。


俺は素早く身を隠しながら、彼女がキョロキョロとあたりを見回しては寂しそうな顔で次の場所へと向かうのを、影ながら見守っていた。


彼女のこのところの行動パターンから予測するに、多分このあと職員室へ行ってその流れで図書室に立ち寄り、闘技場を覗いてみる……という流れになるんだろう。


ユーリンの背中を見送りながら、俺は精神を集中する。



「……ジェード、聞こえるか?」


「リカルドか」


「ああ、悪いがこれから闘技場へ向かってくれないか?」


「闘技場? あ、もしかしてユーリンちゃんか?」



いつもながら察しがいい。まあ、このところ頻繁に同様のことで念話をしていたから、そのせいかも知れないが。



「そうだ。できれば話すだけでなく魔力制御を教えてやってくれないか? 苦労しているようだと、噂で聞いた」


「お前ね。ユーリンちゃんはお前に会いにきてるんだぞ。お前が教えてやったほうがいいと思うけど」


「だが、彼女は……」



言いかけて、慌てて念話へのせる思考を押さえた。俺の口から簡単に漏らしていいものでもあるまい。


そもそも彼女の気持ちに気づいたのは、ほんの偶然だった。


闘技場を破壊したあの日の夜、拠点で軽い雑談をしているときにジェードからの念話を受けたのがきっかけだったと思う。


流れでジェードについての話になったとき、ユーリンは本当にとても嬉しそうにヤツの美点について話していた。目が輝いて、たき火の灯りの中でもそれまでより明らかに頬が上気しているように見えて、色恋沙汰にはうといと自覚している俺でも気付くほど、表情が生き生きとしていたのだ。


少し胸が痛んだが、彼女がジェードに惹かれるのは無理からぬことだ。


彼女の言にあったとおり、ジェードは男前で魔法の資質にも優れている。しかも他の生徒に恐れられるほど愛想が良くない俺に対しても世話を焼いてくれるほどのお人好しだ。


今回の演習を通じてジェードの人となりを知ったユーリンが、彼に好意を保つのは至極当たり前だろう。


彼女の気持ちを理解したとほぼ同時に、俺の中には「応援したい」という気持ちが存在していた。


ユーリンは明るく努力家だ。苦境にあってもくじけない強さと、諦めない粘り強さももっている。才能に至ってはきっと伝説を作れるレベルだろう。ジェードの周りには常に人が溢れているし、彼に恋心を抱いている人物も数多いるのは承知しているが、その誰よりもきっとユーリンほど好ましい人物などいない。


そう考えて、俺はふと自嘲の笑いを漏らす。


……いや、そんなものはこの十日ほどで自分を納得させるために考えた後付けかも知れない。あの夜とっさに考えたのはたったひとつだけだったのだから。


俺はただ、ユーリンが幸せそうに笑っている顔が見たかった。

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