首席騎士様は、逃げ回る
あたしのやる気とは裏腹に、探せど探せどリカルド様の姿は見あたらない。教室はもちろん、図書室や闘技場、職員室までチラ見したけど、結局どこにもリカルド様の姿は発見できなかった。
そうだよね、うん、知ってた。この十日くらいずっとこんな感じだもん。
「おお-、ユーリンちゃん、ご機嫌ナナメだねぇ」
そしてリカルド様を探していると、不思議なことにこうして高確率でジェードさんがフォローに現れるんだ。なんなのこれ、作為しか感じない。
「ちょっと怒ってるだけです。ジェードさんに怒ってるわけじゃないんで、放っといてください」
「おーこわ」
ジェードさんにからかわれても笑顔で返せない。それくらいあたしはダメージを受けていた。
最初はさ、単にタイミングが悪いだけだと思ってたんだよ。
もともとあたしは普通クラスで、リカルド様は特別クラスだもん。授業で顔を合わせるわけじゃない。
でもね、学食でも会わなきゃ、訪ねて行っても「あれ? さっきまでいたんだけど」なんてことが続きに続けば、さすがに避けられてるってわかるよね。
なんでなの。
イヤならイヤって言えばいいじゃない!
姿すら見せないで、苦手だって言ってたジェードさんにフォローさせるなんておかしくない!? そりゃリカルド様はコミュ障だって知ってるけど。……でも演習の間は、あんなにたくさんお話だってしたのに。
悲しくって情けなくって、鼻の奥がツンとする。
ほんとは、あたしのことウザいって思ってたのかな……。
「リカルドを探してるんでしょ? 怒らないでやってね、どうやらあの朴念仁なりに気を利かせてるつもりみたいだから」
「気を利かせて……?」
どういう意味だ。気を利かせてるっていうんだったら、こんなに無駄足を踏ませないで欲しい。首をかしげるあたしに、ジェードさんは苦笑しながらこう言った。
「アイツね、ユーリンちゃんが俺のことを好きだって思ってるみたい」
「……へ?」
あたしが? ジェードさんを? ちょっと考えて、あたしはカーッと頭に血がのぼった。
どこをどう見たら、そんな結論に辿り着くんだよ!!!!!
「違いますから!」
「さすがに分かってるよ。でもアイツ、オレの話きいてくれないんだよね」
ほとほと困った様子のジェードさんを見たら、次第に申し訳なくなってきてしまった。変な誤解をされているばかりに、あたしがリカルド様を探しに来るたび、ジェードさんはこうして面倒くさい思いをしていたわけだよね。
「なんかもう、すみません……思わぬご迷惑を」
「いやいや、ユーリンちゃんのせいじゃないから。ただアイツは信じられないくらい自己評価が低いから、はっきり言わないと伝わらないかもね」
「……!」
なにを、とは明確に口にしないけど、これってあたしの気持ち、ジェードさんには完全に見抜かれてるってことだよね。
「頑張ってね」
去り際にそう言い置いて、ジェードさんは軽くウインクすると颯爽と戻って行った。