首席騎士様は、状況を見守る②
「ザブレット教授、君を懲戒解雇する」
学長の重々しい声に、闘技場が水を打ったように静まり返る。いつの間にか先生たちも修復作業の手を止めて、事の成り行きを固唾をのんで見守っていた。
懲戒解雇って、平たく言うとクビってことよね? えらいことになってない?
あたしも気になってしょうがなくって、ついにリカルド様の背中からおずおずと顔をだす。
うはぁ、学年主任が鬼の形相でワナワナと震えている……! これって怒り、だよね?
「なん……ですと?」
「聞こえなかったかね、ザブレット・カーシェ・ユルグス。君を懲戒解雇する、と宣告したのだよ」
「ば、馬鹿なことを! 私はユルグス家でも宗家の出だぞ!? 次期学長を約束された身だ! 貴様、傍流の分際でよくも……!」
「次期学長を約束された? はて、私は聞いていないが……そもそも宗家だから学長になれるわけではない。現に私も傍系だしねぇ」
「実力がものをいうのは承知の上だ! だがこの学園の教師陣の中で実力が最も高く、さらにユルグス宗家である私がこの学園の頂点に立つのは当然のことだろう!」
勢い込んで立ち上がり、唾を飛ばして怒鳴り散らす学年主任を、学長は冷ややかな目で見ている。そして、深い深いため息をついた。
「確かに君は、魔術師としては高い実力をもっているかも知れないねぇ。だが、教育者としては三流もいいところだよ」
「なに!?」
「先ほど君はユーリン君を無能と罵っていたねぇ。だが私は、彼女は無能な教育者である君の、犠牲者だと確信しているよ」
「なにを、馬鹿なことを……!」
ギリギリと歯ぎしりしながら、学年主任は燃えるような目で学長を睨み付けている。
しっかしこんなヤツが本当に学長なんかになっちゃった日にゃ、あたしなんて一ヶ月で退学にされただろう。落ちこぼれへの弾圧が凄まじそうで、考えただけで滅入っちゃうんだけど。
「君も私も、むしろ一年もかけて彼女の才能を開発できなかった事実を恥じるべきだろう。なんせリカルド君はわずか数日で彼女を導いたのだから」
「……っ」
「私たちは、指導方法を見直す必要がある。それをどうだ。君は反省するどころか彼女をなじり、さらにその力を見誤り、結果これだけの惨事を招いた。それだけの失態を犯しておきながら、なお生徒に責任をかぶせようとするとは」
そこで一拍をおいた学長は、心底不快そうに顔をゆがめる。
「君の差別意識と教育への不誠実さには反吐がでる」
ひえっ……。
これまではおっとりした優しいおじいちゃんだと思っていたのに、一瞬、燃えるようなオーラが見えた。学長には学長の、どうしても許せないことがあるんだと初めて感じた。