首席騎士様は、驚愕する
反射的に顔をあげる。それはもう、本能だった。
深い樹海だというのに樹木の隙間からわずかに見えた空には、小さな黒点が見える。
瞬きする間にそれは巨大な黒になり、見えていた空を覆い尽くした。
「う……そ……」
それは、想像したことすらないほどの、巨大なドラゴンだった。太陽の光を受けて黒光りする体は黒鋼のような鱗で覆われ、顔だけでも家一軒くらいのデカさはあるんじゃないかって程。
その強靭そうな顎が開かれて、凶暴な乱杭歯が露わになる……瞬間、強烈な殺気が全身を包んだ。
体中から冷や汗が吹き出す。首筋がジリジリと灼けるように痛む。全身を、絶望的な恐怖が刺し貫いた。
「ーーーーー!!!!」
とんでもない轟音が空気を揺らして、目の前が真っ白になる。
ドラゴンの空を裂くような恐ろしい叫び声が聴こえて…………私は、そのまま、意識を失った。
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「…………」
「! 目が覚めたか」
ゆっくりと目を開けたら、リカルド様の顔が目前にあった。
「良かった」
「ああもう、心配しましたのよ?」
ジェードさんやアリシア様も駆け寄ってくるし、リカルド様は心配そうな表情で、私の体をきづかいながら抱き起こしてくれる。
あれ? 私……どうしたんだっけ? なんでこんなに心配されてるの?
「私……?」
「体は? どこかおかしいところはないか?」
「え? いえ、特になにも?」
「そうか、良かった……。さすがの君も、いったん魔力が枯渇したようになっていたから、心配した」
ほっとしたようにリカルド様は言うけど、申し訳ないことに意味が分からないんだけど。
「すいません、魔力が枯渇って……私、どうなってたんですか?」
「え!!!??」
驚きたいのはこっちだよ。なんでそんな三人して驚愕の表情するの。
「貴女、覚えていないの!?」
「な、なにを」
「まあ! 信じられないわ!」
信じられない! 信じられない! となぜか悔しそうに地団駄を踏むアリシア様。どうしよう、真面目に意味が分からない。
「いやぁ、この子も天才肌なんだねえ」
苦笑するジェードさんの横で、リカルド様が「そうだな」と、わずかに微笑んだ。
「ユーリン、君はとんでもない規模の魔法で、一瞬であのドラゴンを倒したんだ」
「そうだよ。あの魔法、なんだったんだい? 倒したっていうか消し飛ぶ規模ってありえないでしょ」
「本当ですわ。ドラゴンがいたのが空で良かったですわよ。あんな魔法、樹海が消し飛んでしまうところでしたわ」