首席騎士様は、ただ見守る
「まったく……死にかけたのに呑気なことを」
不満げではあるけれど、もうリカルド様もアリシア様を責めたりはしなかった。きっと、ジェードさんの意を汲んでのことだろうと考えると、なんとなく微笑ましい。
リカルド様は、ジェードさんのことを苦手だって言っていたけれど、本心ではとても大切に思っているんじゃないのかなぁ。
「それよりさ、さっきオレたちが苦労して狩った魔物は? あれだって立派にBランクだ、せっかくだから持って帰らないと」
手を差し伸べて、アリシア様が立ち上がるのを助けながら、ジェードさんが尋ねる。
確かに、倒したって言っていたのに、アリシア様の近辺に魔物の姿はなかった。そりゃあ苦労して倒したんなら証になる頭部だけでも持ち帰らないと損だものね。
「あ……!」
脚に力が入らないのか、アリシア様がふらつく。それをしっかりと支えたジェードさんは、細身の割にとても頼もしい。
ジェードさんを見上げて頬を染めるアリシア様込みで、まるで一枚の絵のようだ。
めっちゃ萌える。
「うわぁ、いいなぁ」
思わずちっちゃく声が出ちゃって、慌てて口を押さえた。いやいやだって、こんな可愛い光景見たら仕方ないよね!?
「ご、ごめんなさい。……あの、ありがとう、ございます……」
「どういたしまして」
恥ずかしそうにうつむくアリシア様に対して、にっこりと笑んでエスコートするジェードさんは、どこまでもスマートだ。アリシア様がジェードさんを意識してぎこちない動きになっているのが可愛らしすぎて、胸がキュンキュンする。
アリシア様、もしかしてジェードさんのこと……。
いや、わかるよー! 顔も成績もいいだけじゃなく、優しくて頼もしいとなれば、乙女としては当然ね、惹かれちゃうよね。
しかも、こうして心身ともに支えてくれちゃったりすれば、ときめくなと言うほうが無理だよね!
「ジェードさん、紳士ですね!」
「……む、そうか」
このわくわく感を伝えたくて、思わずリカルド様に同意を求めてしまったんだけれど、思いっきり微妙な顔をされてしまった。
うーむ、男の人にはわからない感覚だったか。
萌えを分かち合えなくて残念だけれど、私の眼前で、さらに可愛らしい光景は続く。
「そ、そうですわ。倒した魔物、でしたわね」
ジェードさんからさっと視線をそらして、赤い頬のまま、アリシア様が話題を変える。その仕草すらとても可憐だ。
「少し離れたところにあるんですの。案内いたしますわ」
そう言って、アリシアが自分の周囲の結界を解いてゆっくりと歩き出す。
その後について、数分歩いた頃だった。
いきなり、強烈な殺気に、全身が包まれた。