首席騎士様は、鬼神のごとく屠る
それからはもう、ただただ胃が痛くなるような時間だった。
明らかに魔物たちはジェードさんを狙っていて、襲いかかってくる魔物達を相手にジェードさんは攻撃をかわすだけで手一杯。
ジェードさんが防戦に徹すれば、彼を襲う魔物たちにも隙ができる。
その隙をついて、リカルド様が一匹、また一匹と確実に仕留めていくんだ。よく言えば役割分担ができている。
ただ、あまりにも魔物の数が多い。すべては防ぎきれなくて、ジェードさんの体にはいくつもの深い傷ができていた。
致命傷ではない。
でも……。
今ほど、自分の無能さを呪ったことはなかった。
あたしが参戦できれば、あんなにも危険な戦い方をしなくても良かったはずだ。
あんなにも、ジェードさんが血まみれにならなくて、良かった筈だ。
あんなにも、リカルド様がすべての敵を屠らなくて良かった筈だ。
情けない。
魔力の出力がうまく制御できないから、二人を巻き添えにしそうで、怖くて援護射撃もできないなんて。
悔しい。申し訳ない。
結界の横に、巨大な魔物たちの亡骸が積み上がって。
ジェードさんは自らの血で赤く染まり、リカルド様は魔物の返り血で青く染まり……ようやく、魔物の叫びが聞こえなくなった頃には、あたしは自分の無能さ、ふがいなさに、涙が止まらなくなっていた。
「終わったか」
ビュッと鋭く剣を振って、青い血を振り払ったリカルド様は、剣を鞘に収めながら、悠然と結界に戻ってくる。
「Bランクの魔物を大量に……あんな簡単に仕留めるって、お前ホントおかしくない?」
「簡単にではない。どの魔物も命がけで仕留めている」
ジェードさんの軽口に、リカルド様が至極まじめに答えているのが聞こえてくるけれど、反応なんてできなかった。
あたしから見たら、複数のBランクの魔物の攻撃を見極めて、最小限の負傷でとどめたジェードさんだって充分にすごい。彼が魔物をひきつけていたからこそ、リカルド様だってあれだけの数の上級魔物を屠ることができた。
「まぁでもおかげで命拾いしたよ、ありがとな。ユーリンちゃんも……って、え!? なんで泣いてるの!?」
「だ、だって、血が……」
二人がこんなに血まみれで戻ってきているっていうのに、回復魔法すら自信がなくてかけられない自分が、心底イヤだ。
なのに、リカルド様はなにを勘違いしたのか、なぜか「そうか、すまない」と呟いた。
そして、淡い水色の光がふわりと浮かび、リカルド様とジェードさんを洗っていく。瞬く間に、二人の体からは血の痕跡が消え失せた。