首席騎士様は、譲渡までもがお手のもの
転移で跳んだ先は、昼なお暗い樹海の只中だった。
「ジェード! 無事か!?」
「リカルド……! 閃光魔法、気付いてくれたんだな……」
答えるジェードさんは顔も服も煤けて、服もところどころ溶けたり破けたりしている。
「良かった……もう、限界だった」
そう呟いてジェードさんが崩折れると、彼の周囲わずか2メートルくらいに張られていた結界も一緒に消え失せる。
同時に、魔物たちの咆哮が其処彼処からあがった。
「!」
瞬時に反応したリカルド様が、大きく体を回転させて剣で周囲を薙ぎ払う。襲いかかろうと押し寄せたうちの数体は、あっという間にその剣の餌食になった。
あたしを左腕で抱えたままなのに、なんでこんな動きができるんだろう。ていうか、リカルド様が回転した時、振り回されて足が地面から浮いたの、マジでびっくりした。
驚くあたしの頭上では、リカルド様が高速で呪文を唱えている。あっという間にあたしたちの周囲を結界が覆う。安全が確保されたのを確認したリカルド様は、ようやくあたしを地面におろしてくれた。
地面に足がついて落ち着いたあたしの足元には、真っ青な顔のジェードさんが横たわっている。
この顔色、見覚えある。リカルド様が魔力を使い果たした時とそっくり。きっと魔物たちとの死闘で、魔力を使い果たしてしまったんだろう。
それに……アリシア様の姿が見えないのはどうしてなの……まさか。
まさか。
「すまんが、気絶させておけるほど余裕がない」
嫌な考えに身を震わせるあたしの横で、リカルド様はこれまで聞いたことがない呪文を唱え始めた。胸の前で組み合わせた手の中で、魔力の塊が膨れ上がる。リカルド様はその魔力の塊を、ジェードさんのお腹に押し当てた。
「う……」
ああ、すごい。
リカルド様が作った魔力の塊が、ジェードさんの体に溶けていく。まるで雪が溶けて土に染みていくみたい。
魔力が体に馴染むほどに、ジェードさんの頬に赤みが戻っていく。リカルド様って、魔力を吸収できるだけじゃなくて、ほかの人に譲渡することもできるのね。本当になんてすごい人なんだろう。
「ジェード、わかるか?」
リカルド様がジェードさんのほっぺたをパシパシと叩くと、ジェードさんはうめきながらゆっくりと目を開けた。
「魔力を補充した。動けるはずだ」
「……っ」
つらそうにしかめたまま、ジェードさんが起き上がる。
「はは……ホントだ。お前めちゃくちゃだな」
「悪いが話すのはあとだ。まずは魔物を蹴散らそう」