首席騎士様は、何かを察知する
「これは……パンか?」
「はい! 小麦を栽培するところから手作りですよ!」
「すごいな。まさか、こんな場所で焼きたてのパンが食べられるとは思わなかった」
おお、これは明らかに喜んでいる!
目尻が嬉しそうに下がっているリカルド様の顔を、あたしは脳裏に焼き付ける。最後にこんな嬉しそうな顔が見られるなんて、頑張って作ってホント良かったなぁ。
「もう焼きあがるんで、ちょっとだけ待っててくださいね」
もう保存食もとっとく必要ないし、チーズやバターも思いっきり使っていいしなぁ。きのことかの乾物系も使い切っちゃおうかな。リュックの中をちょいと漁って、使えそうな食材を色々と出していく。スープの中身もちょっぴり豪華になったかも。
焼き上がったばかりのパンと、ベリーのジャムを目の前に置くと、リカルド様の口元がほころぶ。きっと本当にパンもベリーも好きなんだろう。
「サンドイッチもありますけど、まずはベリーのジャムで食べてみてください。このパン、美味しいんですよ!」
なんせお父さん直伝のパンだもの!
いそいそとパンにジャムを塗り、嬉しそうに口に運ぶリカルド様に、スープを給じる。お肉と野菜を薄く切って、残りのパンに具材として挟んでサンドイッチを造っていたら、リカルド様が「美味い……!」と感心したように呟いた。
「こんな場所でよくこんなに口当たりのいいパンが作れたものだ。バターの香りも強いが……これは、生地に練り込んであるのか?」
「はい! お父さんがパン職人なんで、レシピを教えて貰ったんです」
「なるほど。しかし器用なものだ」
しきりに頷いては、少しずつ口に運んで大切そうに食べてくれている。まだまだあるから、もっと一気に食べていいのに。
「サンドイッチもできたんで、こっちもどうぞ。ドライフルーツ入りのもありますよ!」
「えらく豪勢だな」
「今日で最後ですから。お肉も焼くんで、食べれるだけ食べちゃいましょう!」
張り切るあたしに、リカルド様ははっきりと笑みを見せる。
「ありがとう。だが、せっかくの美味しい料理だ、作ってばかりいないでユーリンも一緒に食べよう。最後の食事は、君と一緒にゆっくりと食べたい」
まいった。
なんでだろう。なんだか急に胸がきゅうっと締まる感じがした。その感覚の正体が分からないまま、あたしはリカルド様に言われるままに席に着く。
あれが美味しい、これが美味しいって笑い合って。
リカルド様のドラゴンとの死闘のお話に興奮して。
あたしが作った火渡り鳥のコートと帽子を褒めて貰って。
もっともっとお話ししたくて一生懸命に話題をふったけれど、ついに沢山あったパンも食べきって食事が終わってしまおうとしている。
ああ、あたし、本当にもっとリカルド様と一緒に居たかったんだなぁ……って、自覚した時だった。
「!!!!?」
驚いた顔で、急にリカルド様が立ち上がった。