首席騎士様は、ぐるぐるする
「な、なぜだ。親に泣かれたことなど、ない……はずだ」
リカルド様は思ったよりもずっと衝撃を受けたらしい。視線がうろうろとさまよっている。きっと頭の中は「なぜだ???」という疑問がぐるぐるしているに違いない。
「そりゃ、泣くは言い過ぎたかも知んないけど。だって、今はお父さんだってリカルド様のこと、自慢だって言ってくれてるんでしょ?」
「ああ、だから俺は期待に応えられるよう、これまで以上に鍛錬する必要がある」
「だーかーらー、そこがなんか違う気がするの!」
なにがこんなにひっかかるのか、自分でもうまく言えなくて歯がみする思いだった。そして、ふと思い当たってあたしはリカルド様にこう尋ねた。
「えっと……さっきあたしの魔法が成功したとき、リカルド様、あたしを褒めてくれたでしょ?」
「ああ、あれは素晴らしい威力だった」
「褒めてくれたのに、あたし、素直に喜べなかった。もっとちゃんと制御しなきゃって、そればっかり考えてて……リカルド様はなぐさめてくれたけど、あのとき、どう思ってました?」
リカルド様は少しだけ考えて、やがて少しだけ目尻を下げる。いつもの、気をつけてないと見逃すレベルの微笑みだった。
「ずっとできなかった魔法ができたのだから、まずは喜べばいいのに、と思っていた」
「ですよねー! あたしも今、同じ気持ちです」
「ははは、なるほど」
したり顔で頷いたら、リカルド様も今度は声を出して笑った。
「あたしたち、意外なところが似てるんですね。きっと、もっとちゃんと自分を褒めていいんだわ」
「そうだな」
「リカルド様のお父さんやお母さんだって、リカルド様がたくさん努力してるの知ってるでしょう? 褒められたら素直に喜んだほうが言った方だって嬉しいですよ。素直に喜んで、そしてまた頑張るぞって思えばいいんだと思うんです」
「ああ、母はそうかも知れない」
「お父さんは?」
「どうだろうな。俺は騎士の道を選ばなかったことで、父にずっと負い目を感じていたから、父の言葉を素直に受け取れなかったのかも知れない。魔法に喜びを感じるのは父への裏切りのような気がしていた」
「あたしも、リカルド様のお父さんの本当の気持ちはわかんないけど……でも、自慢だっていうのは本心だと思うなぁ」
あたしの言葉に、リカルド様はちょっと切なそうに目を細める。
「そうだろうか」
「うーん、あたしだったら、こんな息子がいたら会う人会う人に絶対に自慢するもの」
「はは、さすがにそれはないだろうが……だが、ありがとう。少し気が楽になった」