【首席騎士:リカルド視点】魔法の才を伸ばすということ
正確に言うと、魔法を全く楽しんでいなかったというと語弊があるかも知れない。新たな魔法に出会った瞬間は、心が高揚する場面もそれなりにあったように思う。
ただ、それは同時に罪悪感も伴うものだった。
俺が生まれた家は、一族揃って老いも若きも剣術一筋で、その力と技に重きをおく者ばかりだった。
悪く言えば脳筋。
体力自慢の父も祖父も兄弟も、魔法なんかには見向きもせず、むしろ魔術師を馬鹿にしていた部分もあったように思う。ちょうどザルツ教諭が騎士家系の俺に無条件で反感を持つように、きっと相容れないものがあるのだろう。
幼い頃の俺は兄たちと比べたら成長がとても遅く、チビで貧弱で、容姿までが女の子のようだったと聞いている。走れば転び、剣すら持ち上げられず、父に怒鳴られてはよく泣いていた、出来の悪い子供だった。
毎日のようにケガをしては、母に魔法で癒してもらう日々。
なんの拍子だったのか、母の真似をして回復魔法を唱えた時のことは、いまでもはっきりと覚えている。
「まあ!凄いわ、私の可愛いリック! 貴方には、魔法の才が宿っていたのね!」
小さなことを見つけては褒めてくれる母だったが、この時は本当に髪の毛がボサボサになるくらい撫で回されて頬擦りされて、全力で喜んでくれた。
俺もなんだか誇らしくて、その日はたくさん母と一緒に魔法を練習した。
ところがだ。
夕食時に母に勧められ、父の擦過傷を癒した俺に、父は心底苦い顔でこう言った。
「お前という奴は……剣も持てぬと思ったら、魔法なんぞに傾倒しおって。不甲斐ない」
褒められるとばかり思っていた俺は、父のあまりの不機嫌さにショックを受けた。だが、もっとショックだったのはその後だ。
いつもは優しい母が烈火のごとく怒りくるって父を諌めたのだ。
怖かった。
今思えば、母はきっと俺を庇ってくれたのだ。子供の才能を潰すような発言をした父に、全力で抗議してくれたんだろうと思う。
多分、食事のあとに壮絶な夫婦喧嘩があっただろうことは想像に難くない。なんせ翌日の朝食時には、父から謝罪とともにお褒めの言葉を授かったのだ。
いつもは威張っている威厳ある父が、見る影もなく萎れて俺に謝ったのも子供心に怖かったし、昨日までは不甲斐ないと怒っていたというのに、「魔法の才を伸ばしなさい」と言われたのも怖かった。
父の言いつけを守るのは、騎士の家系では絶対だ。
魔法はそれから、俺にとってはただひたすら「伸ばさねばならぬ才」になった。
そして、本当は父をがっかりさせたに違いない剣術の鍛錬も、俺には欠かせないものになったのだ。