【首席騎士: リカルド視点】彼女の役に立てるといい
ユーリンが胸をおさえて震えるから心配したが、本人が大丈夫だと断言しているし、あまり心配しすぎて面倒がられても困る。気がけて様子を見ていれば問題ないだろう。
それに、先ほど魔力の動かし方を練習したときに、彼女の覚えが早いことに俺は驚いていた。
これまで体内の魔力を感じたことがないから、体外の魔力をなんとか取り入れて魔法を使っていたと言っていた。取り入れた魔力を扱う術にきっと似通ったところがあったのだろう。
だが、むしろ体外の魔力を取り入れることができるなんて初耳だ。
体内の魔力の湧出量も桁外れに大きいというのに、体外の魔力も集めることができるなんて、彼女はもしかしたら、今後大きく成長する可能性を秘めているのかも知れない。
「リカルド様?」
「ああ、すまない」
ユーリンが俺の顔をのぞきこんでくる。俺が考え込んでしまったせいだろうが、彼女も随分と遠慮がなくなってきたものだ。
演習が始まった当初は俺の顔色をうかがってはビクビクしていたと思うが、今となってはジェードとさほど変わらぬほどに親しげに振る舞ってくれる。俺にとってはその距離感がなんとも心地いいものとなっていた。
演習が終わっても、このような関係でいられるといいのだが。
そう密かに願いながら、俺は彼女に提案する。これからも友人として付き合っていけるよう、少しでも彼女の役に立てるといい。
「ではユーリン、そこの岩に向かってエアカッターの上位魔法、エアスラッシュをやってみよう。昨日は不発だったが、今日の魔力量ならいけるだろう」
「おおー! 憧れのエアスラッシュ! 頑張るぞー!」
ユーリンは気合い満点で腕まくりしている。これまでは体外の魔力を使っていたからエネルギーの変換効率が悪くて、上位の魔法は使えなかったようだが、今日は状況が違う。
上位の魔法を使えれば、彼女にも一気に自信がつくだろう。
「俺も一緒にうとう。詠唱は大丈夫か?」
「授業でも習ったから大丈夫!」
「では、構えて。詠唱しながら魔力を両手に集めて、一気に放つんだ」
「はい!」
素直に返事をして、彼女は魔法を放つために岩に向かって構えをとる。俺は魔力を練りながらも、さりげなく彼女の後ろに立った。
上位の魔法になると威力が違う。初めて上位の魔法を打つ者は、自分が放った魔法の反動で吹っ飛ぶこともよくある話だ。いつでもサポートできるようにしておかなければ。
ユーリンの詠唱が、耳に心地いい。だが、微笑ましく思えていたのはここまでだった。
ちょっと待て、魔力の膨れ上がり方が尋常じゃない。これは、まずい。
「ユーリン……!」
「エアスラッシュ!」
俺の制止は間に合わなかった。