首席騎士様は、胸焼けする
「そ、それって大丈夫なんですか?」
だって、あたしだってさっきまで体中に満ち満ちる魔力で死ぬかと思ってたんだもん。リカルド様も今、そういう状態なんじゃないの!?
こっちがめちゃくちゃ心配しているというのに、リカルド様は「いや、さほど問題ないと思うが」なんて悠長なことを言っている。
まあたとえ具合が悪かったとしても、リカルド様と違ってあたしが何か治療めいたことができるかっていうと何もできないんだけど、それでも心配は心配なんだよ。
「でも顔色が悪いし」
言い募るあたしに、リカルド様は微妙な顔でこう言った。
「ううむ、なんといえばいいのか……胸やけに近い、か? 魔力が濃過ぎてもたれているだけだと思うが。多分魔法を使えば治る」
「胸やけって、そんな。天ぷら食べ過ぎたみたいに言われても」
思いもかけない表現を聞いて、たまらず吹き出してしまった。
暴発してしまうのかって心配になるほど大量な魔力を吸い取ったというのに、リカルド様ったら大したことないみたいに言うんだもの。
ていうか、言うに事欠いて『胸やけ』とか。
「ふふっ……」
自分でも何でツボったのか分からない。でも、緊張とかが一気に解けて笑いが止まらないんだもの。
だんだん笑いが大きくなっていくあたしをちょっぴり驚いた様子で見つめていた首席騎士様は、つられたように顔を綻ばせる。
なんとも幸せそうに緩められた目尻と口角。顔色の悪さを忘れるくらい喜びに満ちた表情に、つい見惚れてしまった。
なんだよ、なんだよ。
首席騎士様ときたら笑うとホント可愛いな! 常日頃の仏頂面とのギャップで、むしろキュンとする。
心の中で勝手に盛り上がるあたしに、リカルド様はトドメとばかりに笑いかける。
「よくわからないが、ユーリンが楽しそうで良かった。君が楽しそうだと、俺も嬉しい」
「!!!」
「ど、どうした。大丈夫かユーリン! 体調でも悪いのか!?」
さっきまであんなにも挙動不審だったというのに、いきなり嬉しいことを言ってくれるもんだから、キュンとし過ぎた。
ついつい心臓あたりを両手でおさえて悶絶しているあたしを見て、リカルド様は本気で心配している。
心配そうに眉を下げている顔がこれまた悲しそうにピスピス鼻を鳴らすワンちゃんに見えて仕方がない。
このままでは真面目に心臓に悪い。なんとか話題を変えなければ。
「リカルド様のおかげで、体調は大丈夫です! それよりも、リカルド様こそ魔力を放出しなくてもいいんですか?」
なんせ胸焼けしてるんだしね!
そう思って問いかけたら、リカルド様は真面目な顔に戻って新たな提案をしてくれた。
「それもそうだな。ユーリンの魔法の練習もかねて、魔力消費の高い高位の魔法を一緒に打ってみるか」