首席騎士様は、教え導く
「美味そうだ」
「……!」
そう言って細められたリカルド様の目が思いのほか優しくて、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。慌てて顔をそらしたあたしには気づかず、リカルド様は愛しそうに瑞々しい葉っぱを撫でている。
「え、えっと……じゃあ、今日はサラダにしますね!」
「やはりありがたいな。君のおかげでこんな荒れ地でも毎日新鮮な野菜が食べられる」
ああ、あたし、成長促進の魔法が得意で良かったなぁ。
嬉しくて、照れ臭くて、あたしは野菜をブチブチと大量に摘んでいく。成長促進のおかげで今や野菜は沢山あるし、今日は奮発しちゃうぞ!
「えへへ、このところ調子良くって。リカルド様に魔法を習ってるおかげかな」
「ユーリン、もしかして魔法を使うときに、これまでと何か違う感覚があるか?」
「え?」
急に真剣な表情になったリカルド様の様子に少し驚いたけれど、あたしはすぐに魔法を使っていたときの感覚を一生懸命に思い返してみた。
なんだか分からないけれど、生真面目なリカルド様が聞くんだもの、きっと重要なことなんだわ。
「ええと、そういえば今日は、成長促進の魔法をかけてるときに、なんだかお腹の中がじんわりあったかくなる感じがしたかも」
体がキンキンに冷えてるときにあったかい飲み物飲むと、お腹の中からあったかくなって、手足までジーンとするじゃない? そう、例えるならちょうどあんな感じだった。
「それだ」
「それって」
「それが、魔力だ。ユーリン、その暖かい感じを、意識して体に漲らせてみるんだ」
急にドキドキしてきた。一年間あんなに努力してきたのに、これっぽっちもお外に出てこようとしなかったあたしの魔力が、本当に顔を出そうとしているの?
「もう一度、成長促進の魔法をやってみるといい」
リカルド様に促され、あたしはラム豆の前に膝をつく。大きく息を吸って、呼吸を整える。ゆっくりと目を閉じて、成長促進の魔法を唱えた。
「……!」
お腹の中に、暖かい塊を感じる。
これを、意識して、体中に漲らせるイメージを持てばいいの?
熱の塊が夏の雲みたいにむくむくと膨らんで、お腹を中心に体中に染み渡っていく様をイメージしてみる。
あっ、すごい……!
指先まで力が漲っていく……!
「うわっ」
リカルド様の小さな声が聞こえたのとほぼ同時に、お腹のあたりにあった熱の塊が、急激に膨れ上がった。
「や……怖い……!」
熱の塊が大きな奔流となって体の中を暴れ回る。こんなの、とても制御できるような力じゃない……!