首席騎士様は、規則正しい生活がお好き。
それから数日。早いものでリカルド様が山を登り始めてからそろそろ五日めになるかな。
「お帰りなさい、リカルド様!」
転移で一瞬で帰ってくるリカルド様を、今日も元気よく「お帰りなさいコール」で出迎える。
山を登り始めて五日め。リカルド様は意外と時間がかかっているとぼやくけれど、Bランクの魔物を倒しながら山頂を目指してるんだから、むしろそうホイホイ登られた方が怖い。
ここのところ毎日リカルド様は、朝出発し、お昼を食べに戻ってきて、また転移で移動して再び山を登る。そして暗くなる前には本日の探索は終了、という規則正しい生活をおくっている。
リカルド様ってやっぱり騎士様の一族だからなのかなぁ、朝起きた瞬間から元気なのよ。
日の出とともにスパっと起きて、顔を洗って歯磨きしたら、そのまま剣の素振りに入る。ひと汗流して満足したところで、やっと朝食っていうスタイルで。
初日は遠慮してやらなかったみたいだけれど、毎日の習慣らしくて二日目からはバッチリとノルマをこなしていた。
そりゃあ魔術師なのにイイ体にもなるよね。
私も一緒に早起きするようになって、正直旅に出る前よりも断然健康的な生活になったけど、リカルド様が素振りしている間はもっぱら朝ごはんを作っている。
リカルド様は「一緒に特訓するか?」と誘ってくれたけど、ぶっちゃけそんなことまでやってたら、体がもたないよ……。
今の私に必要なのは、武道よりも魔道だ。
夜寝る前に、リカルド様から色々と教えて貰っては、昼間ひとりの時に復習する。
リカルド様の教え方は、はっきり言って学園の先生よりも数段わかりやすくて丁寧だ。私がつまずいたところを察知して、さりげなく詠唱の意味を教えてくれたり、近しい魔法に例えて噛み砕いて説明してくれたりする。
本当に優しくって出来た人だ。
なんであんなに恐れられていたんだろう。
私のかわいい菜園に、成長促進の魔法をかけながら、そんなことをぼんやり考える。
おおお、ぼんやりしてる間に、茎がすんごいにょきにょき伸びてきた! やっぱりあたし、魔法がちょっと上達してるんじゃない?
ニマニマと笑っていたら、背後で軽く土を踏む音が聞こえた。二人しかいないんだから、足音の主なんかわかりきっている。
あたしは勢いよく振り返った。
「リカルド様、これ、すごくないですか!?」
「うわっ!?」
後ろから覗きこもうとしていたらしいリカルド様が、思いっきり跳びのいた。どうやら勢いよく振り返りすぎて、ビックリさせてしまったらしい。リカルド様ってホント、意外と繊細だよね。
「ほら! こんなに一気にお野菜が成長するようになりました!」
鼻息荒く報告したら、リカルド様の口元が、ほんの少しだけ綻んだ。