首席騎士様は、かなり重度だった。
あらぬ疑いをかけられたままだとあたしの沽券にかかわる!
慌ててあたしはサッと右手をさし出した。右手で! 右手でお願いします!
「……」
しかし、なぜかリカルド様はあたしの手をじっと見つめたまま、一向に手を掴もうとしない。
「? リカルド様?」
しびれを切らして問いかけたら、リカルド様の顔が急激に茹でだこのように赤くなった。
「で、で、で、では、失礼、するっ」
思い切ったように差し出された手が、面白いくらいにぶるぶる震えている。
え、まさかこれ、照れすぎてなかなか手すら握れなかったと! そういうことですか?
あたしだってなんとなく恥ずかしかったけど、リカルド様の照れっぷりとこのブルブル震える手を見てたら、なんかもう恥ずかしさとかぶっ飛んじゃった。
首席騎士様とまで呼ばれた方が、まさか握手くらいでこんなに緊張するなんて。いや待てよ、そういえばリカルド様の浮いた噂って聞いたことないかも。
呆気に取られて見上げたら、サッと視線を逸らされてしまった。
ええい、いつまでモジモジしているつもりだ!
仕方あるまい、ここはあたしが引導を渡してやろうではないか。
しびれを切らして、あたしはリカルド様の手をぎゅっと力強く握った。
「うわっ」
「おおっ!?」
驚いたらしいリカルド様の手がびくんと大きく縦に揺れる。
その反動で、あたしの体もちょっと揺れた。っていうか、軽く足が浮いた。
リカルド様ときたらどんな筋力してるんだ、驚き過ぎて「おおっ!?」なんて可愛くない声が出ちゃったじゃないの。
腹いせに「どうぞ、どうせ使わない魔力なんで、たっぷり持ってってください」なんて言いながら、にっこりと笑いかけてみた。
そして案の定リカルド様は、真っ赤にゆだっているのに無表情という不思議な体を保ったまま、壊れたおもちゃみたいに首をコクコクと縦に振っている。
結論。
リカルド様は極度の人見知りな上に、女性への免疫が皆無。それも、予想よりかなり重度だ。
なるほど、これはジェードさんが心配する筈だなぁ。
『極度の人見知り』で、『挙動不審になる』って言ってたもんなぁ。
学年首席で、剣の腕前も凄くて、家柄も良い。身長も高いし体格だって立派、しかも人間が出来てる。完全無欠みたいに思えたリカルド様の、このうろたえっぷりは、あたしとしてはなんだか親しみがわいてきて、ぐーんと好感度アップだ。
うん、リカルド様が挙動不審になった時には、慌てず騒がず、こっちからコミュニケーションをとるようにしよう。きっと、ジェードさんみたいに、ちょっと煙たがられるくらいがちょうどいいんだわ。
微笑ましく思っていたら、頭上から「……すまない」の声が降って来た。
「あ、終わりました?」
「い、いや、まだ……その、手汗が出て気になって。すまない……」
まだだったんかい! と突っ込みたくなるのをぐっとこらえた。リカルド様、既に充分しょんぼりしてるしね。
リカルド様、頑張れ……!