首席騎士様は、転移を使いこなしている
リカルド様って、優しい人だな。
あたしが唯一まともにできる魔法、植物の成長促進。周りの人たちに言わせれば、初歩の初歩で、なんなら魔力さえあれば子供の時でも習得できる魔法。
バカにされてばっかりだったのに、この魔法で褒めてもらえる日がくるなんて。
お皿の上の野菜が、あたしの成長促進でできたものだと知ると、リカルド様はちょっとだけ目を細めた。それだけで、なんだかとても柔らかい表情になるのが不思議だ。
「やはり生の野菜は違うな、彩りが鮮やかだ」
ゆっくりと咀嚼してから、そうして褒めてくれる。けして口数が多いわけでも、大げさに褒めてくれるわけでもない。でも、リカルド様が本心で言ってくれていることだけは分かった。
「こんな旅先で、新鮮な野菜が食えるとは思わなかった」
ありがとう、と穏やかに言われて、あたしはなんとなく落ち着かなくなってしまった。
なんだろう、なんだかちょっとドキドキする。
そのドキドキをごまかすように、あたしは一生懸命に話題を探した。っていっても、リカルド様と共通の話題なんてそうはないんだよね。
えーと、えーっと……。
「Aランクの魔物、見つかりそうですか?」
なんの当たり障りも、そして捻りもない話題しか出てこなかった……。地味に反省するあたしの気持ちも知らずに、リカルド様は真面目な顔で深く頷いた。
「ああ、大体の目星はついている。かなり山の上層のほうに生息しているようだ。あと数日もあれば辿り着けるだろう」
「えっ、じゃあ拠点動かした方がいいんじゃ。毎回登るの大変ですよね? あっお弁当とか作った方がいいのかな」
いくらリカルド様が歩くの早くて健脚だっていっても限度があるだろう。そう思ったのに、リカルド様は「問題ない」と事も無げに言う。
「俺の転移魔法は行ったことがある場所を、強く思い浮かべて跳ぶものだから……。いったん登ったところへ転移して、そこから距離をかせげば上へ上へ登って行ける」
「べ、便利……!」
「そうだな、転移は習得した魔法のなかで最も便利だ」
驚愕するあたしに、リカルド様は照れくさそうに同意した。魔法ってたいがい便利だけど、転移は本当に便利そうだなぁ。
「弁当も魅力的だが、やはりこうして温かいものが食いたい」
リカルド様がそう言ってくれて、あたしは途端に嬉しくなった。こうして帰ってきてくれるだけで嬉しいのに、そう言ってもらえると、なんだか役に立ててるのかなって思えるんだもの。
「じゃあ、夕食も楽しみにしててください!」
嬉しくってつい言葉にも力がこもる。
「ああ」と頷いたリカルド様は、ふと思い出したように、「そうだ、君に頼みたいことがあるんだが」と嘯いた。