お見通しかね
宿屋で美味しくご飯を食べて、早速エルフのおばあちゃんが営むという魔法屋さんに来たあたし達。
そのお店は街並みの中に紛れ込むみたいに普通な外観なのに、中に入ると木のウロみたいにまあるくて、ランプでもないぼんやりしたあかりがあっちこっちに灯ってるような、そんな不思議なお店だった。
あ、よく見たら天井が一面木の葉っぱで覆われてる。木漏れ日みたいに葉っぱの間から光が漏れて、店の中だなんて思えないくらい幻想的だ。いったいこれ、どうなってるの?
「いらっしゃい」
物珍しくてキョロキョロしていたら、奥の木の扉から白髪の小柄なおばあちゃんが現れた。このお方がエルフとは……まったくもって外見では分からない。おばあちゃんはあたし達をひとしきり見回してジェードさんの姿を認めると、柔和な顔に笑みを浮かべた。
「おや、こりゃあまた大勢で来たねぇ」
「すみません」
「初めまして。王立魔法学校で指導員を務めます、ステファン・アイルゥ・ザッカメントと申します」
申し訳なさそうに謝るジェードさんの前に、アイルゥ先生がずいっと進み出た。エルフ? のおばあちゃんは意外にもさほど驚いた様子も見せない。やっぱりお年を召すとちょっとしたことじゃ驚かなくなるのかな。
「おや、見た目通りのお人じゃないとは思ったが。先生さんかね」
「はい、うちの生徒に希少な浮遊の術を授けていただけると知りまして。ぜひ授かるところも目にしたく、彼に無理を言って同行させて貰ったのですよ」
アイルゥ先生が……! すごく真面目な先生っぽい会話を成立させている!!!
どうしたんだろ、いったい。
「随分と若いのを沢山連れてきたもんだねぇ」
「我が校でも指折りの学生たちでして。こんな機会は滅多にないので、折角ですから後学のためにも見学させたいと思いまして」
「じゃがのぅ、この術は特殊でのぅ、そう簡単には見せられぬのよ」
「そう仰ると思ってはいました」
小柄なおばあちゃんが困った顔をしているのを見ると無理を言うのも悪い気がするんだけど、アイルゥ先生はそうでもないらしい。含みのある笑みをうかべるとこう仰った。
「このピアスをジェードに授けられたこと、浮遊の術を教えると決意されたこと……相応の故あってのこととお見受けしますが?」
「ほう、お見通しかね」
アイルゥ先生の言葉を聞いた途端おばあちゃんの雰囲気が一気に変わって、人の良さそうな笑顔はなりをひそめ、フン、と面倒そうに息を吐く。そして窓辺に置いてあった揺り椅子に深く腰掛けると、木製の年季の入った煙管を取り出した。