仕切りなおしってことですか?
「よし、今日のところは戻ろう」
突然、アイルゥ先生がそう宣言した。
「いきなり!?」
「そんな、せっかく事故の理由がわかりそうなのでしょう? 原因にきちんと話をつけるべきですわ」
ジェードさんとアリシア様が口々に抗議するけれど、アイルゥ先生はゆっくりとかぶりを振る。
「原因の一端が分かったからこそだよ」
「そうだな、俺も今日はここでいったん帰った方がいいと思う。この船をまた転覆させるわけにはいかないだろう」
リカルド様にそう言われた途端、ジェードさんもアリシア様も、「確かに……」「そう、ですわね」と急にしおらしくなってしまった。
「嵐の原因が人為的……と言っていいのか、つまり精霊と思われる女性が意図的に起こしているものだと判明している以上、うかつなことはできない」
「そうだよね、話しかけたらさらに暴走したり……なんてことになったら怖いよね」
リカルド様にそうすんなりと同意してから、あたしはその有様を想像して震えた。あたしには見えてないけど、ヒステリックな女王様風な人が怒り狂って暴風を巻き起こしてる様なんて考えたくもない、ホントに。
どうやら怖いと思ったのはあたしだけじゃなかったらしくて、ラルタさんとマッシュさんも顔を見合わせて明らかに渋い顔をした。
「なにがなんだか分からんが、怖いこと言うなよ」
「まさか町にまで被害が拡大しないだろうな」
ラルタさんの言葉にハッとする。確かに、その恐れがないわけじゃないんだ。だって相手は精霊で、今は沖合にいるけれどなんの拍子で移動するかなんてわかったもんじゃない。
「リカルド様……」
不安になってすぐ傍にいてくれたリカルド様を見上げたら、リカルド様も真剣な顔で頷いてくれた。
「確かに、慎重にことを進める必要があるな。相手が何を目的としてこんな事をやっているのかわからない」
「そうなんだよねぇ」
リカルド様の言に、アイルゥ先生もさも嫌そうに同意した。
「本当に七大精霊の一人だとしたら厄介だよ。常識が通じない上に力は強大だしね。精霊なんて短絡的で享楽的、って相場が決まってる」
「それ、すごくヤバいんじゃ……」
思わずつぶやいたら、アイルゥ先生に思いっきりため息をつかれてしまった。
「だから帰ろうって言ってんの。下手に怒らせでもしたらホントやばいから」
「……」
船の上に、いやーな沈黙が落ちた。そんなの、どうやって解決したらいいっていうんだろ。
「はいはい、そんな暗い顔しない! 大丈夫、ちゃんと解決のヒントももらってると思うし」
「えっ、なんですかそれ!?」
「それは町に戻ってからのお楽しみ。このまま帰れば投入してきた網も回収できるだろうし、とりあえずはここまで連れてきてもらったお礼に、しっかりと漁をしながら帰ろうじゃないか」
アイルゥ先生はそれ以上話してくれるつもりはないみたいで、アタシたちはもどかしい気持ちのまま、網を手繰りながら港へと戻ったのだった。