怖くて綺麗な嵐の原因
「何もなかったと思うが」
「あたしも特にはなにも」
「うそ!?」
「ねぇジェード、君が見たものをそのまま話してほしいんだけど。さっき暴風と高波が襲ってきたとき、空気に莫大な魔力が混ざったよねぇ? あれは、なに?」
アイルゥ先生の追及に、ジェードさんはますます顔を青くした。
「それはオレにもわかんないですけど、さっき暴風が吹いた時ってめちゃめちゃ綺麗な女の人が浮いてて」
「海を睨みつけて高笑いしながら、風を操っていた……」
ジェードさんが言うと、ユット君のお父さんが呆然としたまま言葉を足す。なにそれ怖い。
「あれは七大精霊の一人、風のアルディア様では」
「あっ、精霊なんだ。あんまり綺麗だからオレ女神様かと思ったよー。縮尺でっかいから人じゃないとは思ったけど」
「故郷にあるアルディア様の像にそっくりだった」
見た者どうしでしかわからないからか、ジェードさんとユット君のお父さんは二人で頷きあいながら情報を交換している。
「おっきかったんですか?」
「うん! 普通の人間の五倍はあったんじゃない?」
「五倍!?」
何気なく聞いてみたら、びっくりな答えが返ってきた。でも五倍って、そんな人見逃す!?
「でも半透明だったんだよね」
「そうだな、しかし見落とすレベルじゃないだろう。もしかしたら風属性の者にしか見えないものだったのかもしれない」
「そんなコトあるんだ。っていうか、よくオレが風属性って分かったね」
「そのピアス……君はエルフなんだろう? だがエルフの特徴は薄いようだ。ハーフかな?」
ユット君のお父さんの指摘に、ジェードさんもあたし達もびっくりしてしまった。あのピアスってそんなに浸透してるモンなの?
「私たちの種族はエルフたちとも親交が深いのでね。君はどこの森の出身?」
「いや、オレ。ピアスも昨日もらったばっかりで……自分がエルフに関係あるかも分かんないんだ」
ジェードさんは次々に訪れる『エルフの一員』という情報に若干引き気味だ。そりゃあそうだよね。今までそんなこと知らずに生きてきたのに、急にそんなこと言われても何が何やら、って気持ちだろう。
あたしも下町で普通に生きてたら、ある日魔力がめちゃめちゃ高いだのなんだので急に王立の月謝もバカ高い魔法学校に入れって言われたときは正直かなり引いたもん。
「ジェード様、すごいです……!」
しかしそんな複雑な気持ちだとは察していないらしいアリシア様は、目をキラキラさせて褒めたたえている。まあ、エルフと言えば魔力にも魔術にもべらぼうに長けた種族だし。あこがれる気持ちもこれまたわかっちゃうよね。