実はこういう者です
「大丈夫だって! 自分の身くらい自分で守れるから心配いらないよ。こう見えて僕は優秀な魔術師だからね」
マッシュさんに速攻で断られてしまったアイルゥ先生は、そう言って自信ありげに笑う。するとマッシュさんはいきなりアイルゥ先生の頭をわしゃわしゃっとかき混ぜた。
「ガキはいきがるもんだって相場が決まってんだ。いつもの漁なら連れてってやるとこだが、今は間が悪りぃ。要らねぇ冗談言って悪かったな、話はちゃんと聞かせてやるから大人しく陸で待ってろ」
「この姿じゃそう思われるのも仕方ないけどさ」
不満そうに唇を尖らせて、アイルゥ先生がくってかかる。
「これは仮の姿で僕はとっくの昔に成人済みだよ。ぶっちゃけ貴方の倍以上生きてるし、今回はこの子たちの指導者として同行している立場で……」
言ってる途中でアイルゥ先生は眉根を寄せて口をつぐむ。マッシュさんが弱ったなぁ、と言いたげな顔で苦笑しているのが目に入ったからだろう、きっと。
「う〜む……」
アイルゥ先生はちょっとうなったあと、あたし達をチラリと見てさらに苦い顔をする。
「仕方ないか、こっちの方が手っ取り早いし」
そう呟くと何やら呪文を唱えつつ、右手をくるくるとまわす。その手のひらからはもくもくと煙がわいてアイルゥ先生の姿を隠していく。
その煙が掻き消えると知的な雰囲気を纏ったロマンスグレーのオジサマが立っていた。
「アイルゥ先生?」
「いかにも」
おずおずと聞いたら、オジサマは鷹揚に頷いてくれる。やっぱりアイルゥ先生で間違いないらしい。でもさっきまで町の子みたいなシャツとズボンの軽装でちょっとそばかすもある少年だったのに、今やロマンスグレーのイケオジ。言葉にもなんとなく威厳を感じる。
「これが本当の姿なんですか?」
「それは内緒。さて、これでいかがかな? 船主どの」
「え……はぁ、いや」
なにが起こったかわからない、といった風情のマッシュさんとラルタさんに、先生はにっこりと微笑んで見せている。でもふたりは顔を見合わせて目を白黒するばかりだ。
「おっと、言い忘れていたね。僕は王立魔法学校の教師でアイルゥ・エイル・ワトキンス。この町からの依頼でこのところ続いている海難事故の原因を調査しに来ている」
「依頼……?」
「じゃあ、お前たちも」
「はい。俺たちはまだ学生ですが」
アイルゥ先生の説明を聞いたふたりが、呆然とした表情であたし達を見る。リカルド様が肯定したら、ふたりはもう一度顔を見合わせて頷きあった。
マッシュさんが真剣な顔で右手を差し出す。
「わかった、昨日の現場まで案内するぜ。よろしく頼む」