ついに話が聞けるのね
「ま、俺も居たほうがお互い緊張しねえかと思ってよ」
そう言って真っ白い歯を見せて二カッと笑うマッチョなお兄さんは、確かに居てくれるだけで頼もしい。それに、先方の要望だとは言え、夜も明けない時間にまだ知り合いでもない人のお宅に突撃するのってやっぱり勇気が要るもんね。
「助かります。ありがとうございます」
リカルド様が少し安堵したみたいな顔でお礼を言うと、お兄さんは「気にすんな!」とリカルド様の肩を荒く叩く。そして、その視線はそのまま下に落ちてアイルゥ先生をとらえた。
ちょっぴり意表を突かれたような顔をしたお兄さんはあたしたちを一通り見回して「言ってたツレか? 変わった組み合わせだな」と笑う。それでも特にそれ以上追求することもなく、くるりと踵を返した。
「じゃ、入るぜ」
ひとこと告げたあと、お兄さんは軽い足取りで玄関前の階段を上がると、ドンドンと壊れそうな勢いで扉を叩いていた。そんなに主張しなくても。
「おーいマッシュ! 昨日言ってた奴ら、来たぞー」
「うぉーい、入れ」
あ、思ったよりも元気な声だ。今日お話を聞けるのはマッシュさんという方なんだね。
勝手に玄関の扉を開けて勢いよく家の中に入っていくお兄さんのあとについて、あたし達もわらわらと家の中にお邪魔する。
漁師さんの家らしく潮の香りがする屋内には、お兄さんよりもさらにマッチョな角刈りの男の人が居た。すごい、お兄さんよりさらにひとまわり体が大きい。しかもお兄さんよりも日焼けして肌が黒い。
「体調は悪くねえみたいだな」
「あんな程度の転覆でまいってられっか。こっちは稼ぎ時なんだ、一日も無駄にできねえ」
「悪りいな、忙しい時に」
お兄さんが謝ってくれているのを見て、あたしは慌てて頭を下げた。
「すみません、無理を言ってしまって」
「いいさ、ラルタが連れてきたくらいだ。興味本位で話がただ聞きたいってわけでもないんだろ。分かることならなんでも話す」
「ありがとうございます!」
もう一度勢いよく頭を下げて、あたしはお兄さんことラルタさんにも笑顔でお礼を言った。マッシュさんが話を聞かせてくれるのも、ラルタさんの信用あったればこそだもんね。ホントありがたい。
「おっ、坊主も早起きして来たのか。漁に一緒に来るか?」
人のいい笑顔を浮かべてマッシュさんがアイルゥ先生の頭を乱暴に撫でると、アイルゥ先生はあからさまに目を輝かせた。
「それは願ってもない」
「ばっ、バカ、冗談だ。命の保証ができねぇ」
アイルゥ先生に即答されて、逆にマッシュさんが慌ててしまった。ていうか、やっぱりすごく危険だと思っていながらマッシュさんは漁にでようとしているのか……。