よう!来たな
「お、みんな寝坊せずに揃ったね。えらいえらい」
見た目あたし達よりも年下の先生に、子供みたいな扱いで褒められたけど、まぁそんな言葉もわからないでもない早朝の集合だった。
なんせ朝が早い漁師さんたちにお話を聞こうというのだから、必然的にお伺いする時間も早くなる。ぶっちゃけまだ暗いもの。お日様だってまだ寝てる時間だよ。
船体の被害が少なかったからって、なんと今日も漁に出るのだという。ひとつ違うのは昨日海難事故に遭った地点までは船を進めないという、ただそれだけだった。
「お体も万全ではないでしょうに、今日くらいお休みになれば良いのに」
「生活がかかってるからね、そういうわけにもいかないんでしょ」
前を歩くアリシア様とジェードさんの会話が微笑ましい。この感じを見るに、ジェードさんも特に遠慮なく話しているみたいだし、感触はけして悪くないと思う。
昨夜の女子トークでアリシア様とすっかり仲良くなったことだし、タイミングを掴んでうまくサポートしてあげられるといいなぁ。
そんなことを思いながら、あたしはついつい胸元のペンダントを触っていた。嬉しくて、昨日から気がついたら触ってしまっている。しかも顔がニヤけるのを抑えられない。
だって可愛いし、なによりリカルド様がプレゼントしてくれたものだって思うともうそれだけでなんとなくテンションあがるんだもん。
ふと視線を感じて見上げたら、リカルド様が目を細めてあたしを見下ろしていた。その雰囲気が優しくて、あたしの顔もつい綻ぶ。
「気に入ってくれたようだな」
「はい! 可愛くってつい触っちゃいます」
「良かった。ユーリンの嬉しそうな顔を見るとこっちまで嬉しくなるな」
「はいはい、そろそろ着くよー。地図が確かならね」
リカルド様との平和もここまでか。アイルゥ先生の「そろそろ着くよ」の声に背筋がピンと伸びる。
「失礼がないようにね」
先生らしくアイルゥ先生が注意を促してくれて、あたしたちは一斉に頷いた。道の向こうにはひときわ大きい石造りの家が立っている。まだまだ辺りは暗いけれど、窓からはこうこうと灯りが漏れていて本当に漁に出るつもりなんだと感じられる。
まあ、ここらへんのおうちって漁師さんが多いのか、結構な家の灯りがともってはいるけれど。
「あれ?」
目的の家の前で、何か動いた気がした。
「よう! 来たな」
あ、この声。
家の前で大きく手を振ってくれていたのは、昨日の食堂で出会ったマッチョなウエイターさんだった。