商店街の状況
「じゃあ拗ねちゃったユーリンはとりあえずリカルドに任せて、次はジェードとアリシアの報告を聞こうかな」
旗色が悪いと思ったのか、拗ねたあたしという面倒ごとをさっさとリカルド様に押しつけて、アイルゥ先生は次の話題をふる。
リカルド様、そんなに困った顔しなくても大丈夫ですから。
どうしたらいいか分からない顔をしているリカルド様が可哀想になって、あたしは仕方なくまたエビのフライに手を伸ばす。あたしのことは気にせず、リカルド様も食べてください……。
「残念ですが、わたくし達は目覚ましい情報は入手できなかったんですの」
「オレ達は街の中央部分の商店街だったから、海難事故についてはあまり詳しくは知らないみたいで、船の行き来ができないことで商売に支障が出てるってグチが大半で」
アリシア様が気まずそうに口火を切ると、ジェードさんが端的に商店街での話を要約してくれる。
「生活雑貨や食料品なんかは陸路で他の街から仕入れるルートを急遽確保して、なんとか生活に困らないような対策は打たれてるらしいんだけど」
「ああ、だから街自体は割と健全にまわってるんだね。街の人たちの暮らしも困窮してはいないようだった」
アイルゥ先生が考え深げに頷く。そっか、アイルゥ先生はこの町の居住区で情報収集してたんだもんね。居住区の状況と合わせて考えても妥当な施策が打たれてる印象があるってことなんだろう。
「この街の特色でもある交易品が入らなくなってるから、商売あがったりだって嘆いてた」
「治安も以前よりは悪くなったそうですわ」
「船が出せなくていらつく船員達が暴力沙汰をおこしたり、……まあ、宿代がつきる御仁もでてきてるみたいなんだよね」
「なるほど、状況は徐々に悪化しているんだな」
そうだよね、当たり前っちゃ当たり前だけど、生活の基盤がある地元の人たちよりも、ここに足止めされてる旅行者や船乗り達の方が切実に困ってるんだ。
「あと、アイルゥ先生、ひとつお願いがあるんですけど」
「うん?」
思い出したようにジェードさんがそう言うと、なぜか横でアリシア様の眉間にしわが寄る。なんだかとっても悔しそう。
「明日、リカルド達が言ってた海難事故に遭った漁師の話を聞いた後でいいんですけど、オレ、少し自由時間を貰ってもいいですか?」
「いいけど、どうかしたの?」
「よく分からないんですけど、なんか魔法を教えて貰えることになって」
自分でも首を傾げつつ、ジェードさんはおもむろに両耳からピアスを外し、アイルゥ先生に手渡す。
アイルゥ先生は、手の中のピアスをマジマジと見つめると興奮したように目を輝かせた。