アイルゥ先生は地味に凄い
宿屋に戻ってみたらお部屋はなんと三つも取られていた。
アイルゥ先生はもちろん個室だし、リカルド様とジェードさん、あたしとアリシア様が同室だ。アリシア様と二人だけで長時間一緒にいたことってないからちょっと緊張しちゃうけど、正直なところ雑魚寝も覚悟してたから好待遇で嬉しい。
宿の人たちがアイルゥ先生がもう帰ってきてるって教えてくれたから、各自荷物をおいてアイルゥ先生のお部屋を訪ねると、先生はベッドに寝転がった状態でゆっくりとくつろいでいた。
「失礼します」
「うん、入って~」
自由だな、ベッドから起き上がりもしないのか。ていうかこの部屋豪華だな、ベッドの装飾も凝った彫り物とかあるし、なにより広い空間に応接セットが置いてある。なんかこう、特別室って感じ。
「疲れただろ、とりあえず座りなよ」
促されて応接セットに歩み寄る。すると何もなかった空間にいきなりティーセットとガラスのティーポットが現れた。
「うわっ」
「急に出てきた」
「あー、僕の部屋から転移させただけだよ」
なんてことないって感じでアイルゥ先生は言うけど、めちゃめちゃ凄いよ。
「物質を転移させることも出来るんですね」
「うん、そろそろリカルドにも教えてあげるよ。でも最初は壊れても惜しくない物で試してね。生き物は相当難しいから、絶対の自信ができるまでは却下」
怖いことをさらっといいながら、アイルゥ先生が起き上がる。見た目は少年っぽく見えるけどやっぱり凄い先生なんだよね。
「お茶の用意は自分でやってよ。はいユーリン、そのポットに水差しの水を入れて、お湯にして」
「う……はい」
私が魔力制御が苦手だと分かっていての課題だろう。いや、前よりはうまくなった。めっちゃうまくなったけど……みんなに注目されている状況とかハードル高いよー。
「ユーリン、大丈夫だ」
励ましてくれるリカルド様、優しい……。目を合わせたら、安心させるように優しい目で頷いてくれた。
うう、頑張るよ……。
とりあえず手動で水差しの水をポットに入れて、呼吸を整える。そしてポットの中の水だけに意識を集中させて熱を与えていく。熱を与えるものを雑にしちゃうと、ポットのガラスとかまで溶けちゃったりするから気を抜けない。
見ると次第に水が対流しはじめ、やがてポコポコと気泡があがってきた。水の表面にボコボコと大きな気泡ができたとき。
「はい! よくできましたー」
アイルゥ先生の声で我に返る。ふうっと息をついたら「まだ苦手意識があるんですのね」ってアリシア様に笑われてしまった。
そりゃああるよ。集中してるとやめどき忘れたりするもん。今もアイルゥ先生に声かけられなかったらちょっとやばかった。