首席騎士様は、ベリーがお好き
「魔物は、魔力に惹かれる。君の魔力は魔物にとっては極上のエサというか、恰好の獲物というか……、美味そうな匂いを振りまいている状態だ」
「ひえっ……」
「だから、結界を張った」
知らなかった……! だからあんなにもすぐに魔物が登場したのか。なんでこんなタイミングで出てくるんだよって思ったけど、あたしが撒き餌みたいな状態になってたってことか。
「結界をでると危ない。……出ないで欲しい」
あたしは首がちぎれそうな勢いで頭をぶんぶんと縦に振った。そりゃあ結界から出たら魔物に食べてくださいって言ってるようなもので、どう考えても自殺行為だもん。
「絶対に、出ません!」
全力でそう言ったら、首席騎士様はほっとしたように薄く笑った。
うわぁ……笑ったの、初めて見た。
意外にも優し気に細められた目に、あたしの緊張感が一気に解ける。ついついじっくりと見つめていたら、あたしの視線に気づいたらしい首席騎士様が、だんだんと顔を赤くしていく。
そして、押されでもしたみたいに一歩うしろに下がってしまった。
視線が定まらないどころか、顔自体が所在なさげにおろおろとあっちを向いたり天を仰いだりと落ち着かない。
何かを言おうと口を開け閉めしているけれど、そのたびに思いとどまっては気まずそうにため息をつく。
あれ? この感じ、さっきも見た。
ジェードさんが言ってたヤツだ。首席騎士様は、またもいきなり『何を話したらいいか分からない』モードに入ってしまったらしい。
「あ、と……その、君はそもそも、なぜ結界から出たんだ」
絞り出すように小さな声でそう尋ねられて、あたしもハッとした。
ベリー!
慌ててあたりを見回せば、ベリーは無事に……というか、あたしの体につぶされる事もなく枝ごとその辺になげだされていた。さっき首席騎士様に助けて貰った時、結界内に転がり込んできちゃったから、その時に手から離れちゃったんだな。
手早くベリーの枝を拾い上げる。
ああ良かった。あんな思いをして手に入れたものだもん。せっかくだから役に立ってもらわないと。
振り返ったら首席騎士様が安定の無表情に戻っていた。ちょっと距離があると平気なんだな。面白くなって、少し笑いが出てしまった。
「ベリーを採ろうと思って……ごはんを作って、待っていようと思ったんです」
あたしの視線の先を追って、焚火や刈られた草を一瞥した首席騎士様は、「そうか……そうだな」となにやら頷いている。
「こんなに無理して採る必要なかったのに、手が届かなくて、ついムキになっちゃって」
ごめんなさい、ともう一度謝ると、首席騎士様は「いや、ありがとう。ベリーは好きだ」と言ってくれた。
表情はまったく動かないから、本心なのか、気を遣ってそう言ってくれたのかは正直分からない。
それでも、その時あたしは、なんとか首席騎士様とうまくやっていけそうな、そんな予感がした。