ちょっとしたお礼です
なんと、水龍たちまで迷惑していたとは。問答無用で水龍の住処に殴り込みとかしなくて、本当に良かった。
色々話せてすっかり打ち解けたあたしたちは、その後魚人さん達のテーブルに本格的に移動して他愛もない話に興じる。ユットくんのお父さんとお母さんのおかげで、意思の疎通が難しいらしい魚人さん達ともとっても仲良くなれてしまった。
しかもしかも、子供ってすごいね。
おっきな目をキラキラさせながらずうっといい子に聞き耳を立てていたユットくん。なんと最後の方ではたどたどしいながら魚人さんに話しかけていた。お母さんの血のおかげもあるんだろうけど、まず話してみようって思えるのがすごいよ。
やんちゃそうな顔から「グギャゲ、キュッキャ?」とか意味不明な音がでるのが可愛くって、あたしはもうメチャクチャ褒めてしまった。超癒される。
「今日は本当にありがとうございました! おかげで貴重なお話がきけました」
「いいんだよ、俺たちも有意義な時間だった。ユットにも友達ができたし、良かったな」
「うん! 楽しかったー!!!」
「グゴゴガギィ!」
魚人さんたちもユットくんも満面の笑顔だからいいのかも知れないけど、こんなにお世話になっておきながらなにもお礼ができないのももどかしい。さっき何かお礼を……って言ったんだけど、断られちゃったんだよね。
お母さんも、お父さんの肩の上でクア〜……と大欠伸している。かなり疲れさせちゃったんだろう。
何か……何か喜んでくれること、できないかな。
「あっ」
考えていて、ふと閃いた。
「ユーリン?」
「ちょっと……ちょっと待ってて!」
あたしは慌てて自分のバッグをごそごそとかき回す。
「あ、あった」
取り出したのは手の中に隠れるくらいの小さな泥団子。あたし、小ぶりの缶の中にこんな泥団子をたくさん持ってるんだよね。
「なあに? コレ」
「ちょっと離れて見ててね」
ユットくんが覗きこむのを、少しだけおさえる。手のひらの上にある泥団子に静かに魔力を流し込めば、泥団子の中からピョコン! と可愛い双葉が顔をだした。
「わぁ!?」
「グギャ!?」
「可愛いでしょ。もっともっと大きくなるよ」
双葉に適量の魔力を流し込めば、双葉からは新芽と蔓がキュルキュルと勢いよく伸び出て、初々しい若葉が次々に萌えでてくる。頼りない蔓に小さな棘が立ち上がり、脇芽も機嫌良く成長している。
「あっ、トゲトゲがある!」
「そう、これ何か分かる?」
「ベリーだ!」
「ふふ、正解」
目の前でいきなり成長していくベリーに、みんな視線釘付けだ。
どこでも魔力制御の練習ができるようにって用意してた種入りの泥団子が、こんなところで役に立つなんて。
持っててよかった。