魚人さんたちが言うことには
お店の厳ついお兄さんのたっての頼みで、助けてくれたことへの感謝を伝えることから始まった魚人さんたちとの会話は、思いのほかスムーズだった。
と言ってもお母さんはあたし達の言葉はわかっても、人語を話すことはできないらしくて、間にお父さんを挟んでの二段構えの通訳だから、意思疎通自体は時間がかかる。
それでも、目的が一緒だったのが良かったんだろう。
この海で暴れてるヤツをなんとかしたい。
あたし達も、鳥人さん達も、魚人さん達も、思いはひとつだ。
魚人さん達のギャっとかキューとかグガグゴ言ってるようにしか聞こえない言葉をお母さんがクアッ、クルルル……と通訳してくれたところによると、船が転覆した時はやっぱり海のなかも荒れに荒れていたらしい。
嵐がおこると当然海も荒れるけれど、普通は潮の流れが早くなって、かき回されるように不規則な海流になるんだって。でも、今日は違った。
普通に天気の良い朝だったこともあって、魚人さんたちの多くは日が昇る前から海に潜っていた。食事を確保するためでもあるけれど、働いている船が出航できずにいるものだから、退屈しのぎに海底を散歩していたっていうから優雅な話だ。
港の近くだからまだそんなに水深も深くなくて、太陽の光が頭上にゆらゆらと揺らめいて見える穏やかな海だったのに。
なんの前触れもなく、急激に潮目が変わったかと思うと渦を巻いて荒れ始めた。
この近海で巨大な渦が発生するだなんて魚人さんたちも初めてのことだ。海底ののんびり散歩を楽しんでいた四人の魚人さんたちは恐れおののいて岸の方へ向かって一斉に逃げる。
その時。水に新たな振動が加わった。
恐れつつ上をみたら、もがく数人の人影が見える。そこには船から投げ出され、渦巻く潮の流れにもまれてなすすべもない漁師たちの姿があった。
「そんな荒れた海の中、あいつらを助けてくれたんだなぁ、ありがとうな」
感動したらしいお兄さんが涙ぐんでお礼を言う横で、リカルド様は難しい顔で何かを考え込んでいた。
「……渦は自然発生したんだろうか、あるいは渦を発生させている魔物がいるのか」
リカルド様のつぶやきに、あたしも同意だ。だって確かに違和感を感じるよね。これまで発生したことがないのに、急に渦が巻くだなんて。
「わからない、と言っている。彼らも渦がなぜ発生したのかわからないそうだ。発生が急な上に大規模すぎるから自然発生はあり得ない、だが魔物も見ていないんだと言っている」
「本当に水龍って関係なかったんですね」
「ああ、水龍というからには大きなものなんだろうし、今回の件に関係しているならば姿が見えないというのは理屈にあわないだろうな」
「水龍は関係ないらしいぞ。水龍も海が荒れることに迷惑してるんだとさ」