オレたちが通訳しよう
襲われた人ですら何が起こったのかわからないだなんて、あたし達はいったい何と戦えばいいんだろう。ていうか、むしろ船を襲っているのは水龍じゃない可能性が高まったのかも知れない。
うーん、と悩んでいたら、同じように思案顔だったリカルド様がふと顔をあげた。
「さっき、あの席に座っている魚人が助けてくれたと言っていただろうか」
「ああ、世話になったからな。たらふく食って行ってくれってオレがこの店に招いたんだ」
「彼らに話を聞けるだろうか。海の中では何か異変があったかも知れない」
おお! それはナイスアイディア! 確かにそれはあるかも。そう思ったのに。
「紹介はできるが、言葉は通じねえぜ。魚人の言葉は特に難しいんだ。食って行けってのも身振り手振りと食いもん見せて誘ったくらいだから、実のある話を聞くのは無理じゃねえか?」
「なるほど。困ったな」
さすがのリカルド様でも、色んな言葉を翻訳できるみたいな便利魔法は所有していないらしい。頼もしかった肩がシュンと小さくなった。
でも、海の中の状況を知る当事者に話を聞ける機会なんてそう簡単に訪れるとも思えないし、この機会を無駄にするのはもったいなさ過ぎる。うーん、アイルゥ先生ならもしかして。
「ねえおかーさん、お願いだよぉ」
あたしとリカルド様が悩む横では、相変わらずユットくんの可愛い声が聞こえている。
……ん? おかあさん?
いつの間にかお母さんと合流したのかと思ってユットくんを見たら、ユットくんはなんと、お父さんの肩に大人しくとまっていた白い鳥さんに一生懸命に話しかけている。
「おかーさんってばぁ」
「オレも助けた方がいいと思う。原因が分かれば対処できる。船がでるかも知れないじゃないか」
なんと、お父さんまで「な?」とか言いながら鳥さんに頬ずりしている。まさかまさか、あの鳥さんがユットくんのお母さんなの!?
鳥さんはついに根負けしたのか「クア~~~……」という諦めの混じった声をだした。
「ありがとうお母さん!」
ユットくんが小躍りしてて、お父さんが愛しそうに鳥さんに頬ずりしているところを見るに、お母さんが「仕方ないなあ、分かったわよ」的に押し負けたんだろう。
あたしと目が合ったお父さんは、にっこりと笑うと鳥さんを撫でながらこう言ってくれた。
「オレたちが通訳しよう。妻は魚人の言葉が分かるんだ」
なんでもね、昔っから鳥人と魚人は海の状態とか魚の居場所とかを情報交換してきたんだって。お母さんは鳥の血が濃いせいか、かなり高レベルで意思疎通が可能らしい。
「すごいな……」
リカルド様から感嘆の声が漏れる。
いや、ホントにね。さすがになんかびっくりする情報が多いよね、姿も含めて。