原因がわからない
「あの、この港って水龍が生息してるって聞いてたんですけど、その……水龍が船を襲ってるとかじゃないんですか?」
「どうだろうな、沈没船の生存者がいなくて分からんらしい」
あたしは思わずリカルド様と顔を見合わせた。確かにアイルゥ先生は、水龍討伐がメインになるかは分からない、原因の調査も僕らの仕事だって言ってたけれど……本当にホンボシは分からないんだ。
「何か、襲われる船に特徴はないのだろうか」
リカルド様が問うと、お父さんは少し考えて「そういえば」と切り出した。
「不思議なことに、この港に入ってくる船は無傷なのに、出て行く船ばかりがやられるらしい」
「もしかして、だからこんなに船が停泊してるんですか?」
「ああ」
「カッコイイお船がいっぱいだよね! ボクね、あの黒い強そうな帆がついたお船が好き!」
船の話になったのが嬉しかったのか、ユットくんがキラキラした目で窓の外から見える帆船を指さしている。めっちゃ可愛い。手を伸ばして頭をナデナデしておいた。
「それでは街の漁師の方などは被害に遭っていないのだな……」
リカルド様がホッとしたようにそういった瞬間、背後から「そうでもねえぜ」と声がかかった。同時に目の前にはユットくんオススメの魚の唐揚げ定食が置かれる。
見上げたら、鍛え抜かれた腕も胸板の、どう見てもウエイターというよりは漁師。海の男ふうのお兄さんがジョッキのタワーを片手に立っていた。このお店の人かなあ。
「昨日、ついに漁に出た船が沈められた」
「えっ!?」
「まあ、仲間内ではデカい船だったし、いつもより沖に出ちまったっていうから、もしかしたらこの港を出る船と間違われたのかも知れねえが」
「ふ、船に乗っていた方は……」
新たな被害者が出たという話に、あたしはもう心配でならなかった。あたし達の処置が遅くなればなるほど、被害者は増えるという事が、急に実感をもってあたしの肩に重くのしかかってくる。
「それが、運良くみんな助かってなぁ。まぁあそこにいる魚人族の兄ちゃんたちがいち早く駆けつけて、俺たちの仲間をたすけてくれたんだよ。そうでもなけりゃみんな死んじまってたさ」
「助かって良かった……」
「それでは助かった方たちは、船が何に襲われたのかを見たのではないのですか」
リカルド様が身を乗り出して聞いたけれど、ウエイターのお兄さんは無念そうに首を横に振る。
「それがよう、結局分からねえって言うんだよ。急に、すげえ風が吹いてえげつねえ大波と風でムリヤリ船が転覆させられたみたいだった、なんて言ってよう。まるで嵐みたいだったって」