港から出られない
「あの、もし良かったら色々お話聞かせていただけませんか?」
「ユーリン」
ダメもとで聞いてみる。リカルド様は驚いた顔をしたけれど、人なつっこいユットくんが居る分、他の席についている獣人さんたちに比べて話しやすいと思わない? めっちゃチャンスだよコレ。
「おとーさん、ボクもお話したい!」
ユットくんの援護射撃に、ちょっと困った様子だったお父さんも折れてくれた。苦笑しつつ「わかったわかった」と席を立つ。どうやらあたし達のテーブルとくっつくけて、簡易的に四人がけの席にしてくれるらしい。
お父さんは立ち上がるとリカルド様と同じくらいに長身だった。背中の羽は大きくて頑丈そう。浅黒くて筋肉質な体も、この強そうな羽ならしっかりと支えてくれるに違いない。
対してユットくんの羽はまだ柔らかそうでちょっと頼りない。色も淡くてまだまだ成長途上な感じが愛らしかった。
「すみません、無理にお願いしちゃって」
「ありがとうございます」
「いや、ユットも退屈していたからむしろありがたいよ。ちなみに君たちはいつからこの街に?」
意外とフレンドリーに話してくれるお父さんに、少し安心する。ユットくんの頭を愛しそうに撫でている姿に、お父さんの優しさが垣間見えた。
「実は今日、というかついさっき街に入ったばかりなんですよ」
「昼の馬車でついたばかりだ」
あたしとリカルド様がそう話すと、お父さんは途端に苦い顔になった。
「それは間が悪かったな。今、この街じゃ船が出せないぞ」
「ボクたちもね、もうずっとお船にのれないんだぁ」
お魚のからあげをもぐもぐしつつ、つまらなそうに足をぶらぶらさせてるのが可愛い。ユットくん見てると癒やされるなぁ。
「なぜ船が出ないんですか?」
おっと、あたしがユットくんに目を奪われている間に、リカルド様が話を進めてくれようとしている。あたしも真剣に聞かなくちゃ。
「理由が分からないってのがマズイのさ。もう三隻はデカい船が沈んでる。沈む理由がわからなきゃ、迂闊に船は出せないからな」
「じゃあ、ここにいる人たちは船が出せないせいで、ずっとこの港にいるんですか?」
「ああ。俺たちは船持ちじゃないから別の港に行けばなんとかなるのかも知れないが……陸路で別の港に行くにも時間がかかるし、この街ほど異種族に寛容な港はない。この街にとどまっている輩は概ね同じような理由だろう」
言葉を濁すお父さんの様子に、やっぱり迫害だったり差別だったりがあるのかな……とちょっと悲しくなった。
「ユットも一緒だからな、できるだけ安全に旅をしたい」
そう言って笑うお父さんの顔が優しい。
そっか、みんな困ってるんだよね。一刻も早く問題を解決しないと。
改めて、そう思った。