転移魔法は便利だけれど
話が決まってからはあっと言う間だった。
ジンガイまで馬車で2日のカルックという街まで、アイルゥ先生が転移魔法で連れて行ってくれたからだ。
船や飛龍や馬車諸々を乗り継いで2ヶ月はかかる筈のジンガイにこんなに早く着くだなんて、やっぱりすごい魔法だなぁ。
「これでリカルドもカルックとジンガイには転移出来るようになるんだよな」
「ああ」
「やっぱ便利だよなー。俺も覚えようかな」
「やってごらん。ただ本を探し当てるのも、書いてあるところまでをマスターするのも、自分一人でやってね。そこまでたどり着いた人にだけ教える、特別な魔法だから」
あたしと同じく転移を便利だと思ったらしいジェードさんの呟きに、珍しくアイルゥ先生が真面目な顔で忠告する。
「リカルド、君も教えないであげてよ。教えた時点でジェードが転移を覚える機会は永久に失われてしまうんだ。親切心は仇になるから」
「わかりました」
「うわ、厳しい」
真剣な顔で頷くリカルド様を横目に、あたしの口からは思わず正直な感想が漏れていた。そして速攻でアイルゥ先生に諭される。
「あたり前でしょ。使いようによっては犯罪にだって使えるんだ。この魔法が悪人に伝承されたらと思うとゾッとするよ。だからこそ腕も資質も人柄も、考慮して伝承する魔法なんだよ」
そ、そうだったんだ……。なるほど、リカルド様はアイルゥ先生の言う厳しい基準にしっかりと合格したってことなのね。
「なにより、魔法自体が人を選ぶんだ。指南書も特別な場所に隠されて保管されてるし、教えてはならない人には絶対に探せない。リカルドは、この魔法を手にする資格があるから見つけられたのさ」
「リカルド様、すごい……!」
「いや……そういう魔法だとは知らなかった」
「教えてないもん。でも魔法には、そういう特別なものもあるんだよね。便利なのは確かだし、もしかしたら君たちも魔法に選ばれるかもしれないよ? あの場所にはその類の奇書が色々あるから、君たちも試してみれば?」
「魔法に選ばれる、だなんてなんだかロマンチックですわね」
「確かに。オレも探してみようかなぁ」
アリシア様もジェードさんも、目を輝かせている。二人のこんな表情ってこれまであんまり見たことなかったなぁ。宝物を見つけた子供みたいで、ちょっと可愛い。
アイルゥ先生も、なんだか嬉しそうに笑っている。
「うん、君たちならきっと選ばれるよ。頑張って」
「はい! ジェード様、学校に戻ったら早速探しに行きましょうね」
「え!? う、うん」
おお! しかもアリシア様が果敢に攻めてる!
頑張れ、アリシア様!