首席騎士様は、お出かけ中②
幸い、しばらく野宿になることだってあるって思ってたから、一通りの準備はあたしだってしてきたし。ナイフと携帯食と、お水のもとは買えるだけ買ってきた。
……まぁ、首席騎士様なら水なんかホイホイ魔法で出せるだろうけど、あいにくあたしは頑張ってもコップ一杯程度を出すのだって精一杯だからね。
さっき、首席騎士様は数刻で戻るって言ってた。つまり、ある程度時間はあるってことだ。彼が戻ってくるまでに、どれだけのことができるだろう。
「よし!」
腕まくりして、あたしはまず小ぶりな石をたくさん集める。かまどまでは作れなくても、焚火で料理できるくらいのものは作りたい。
腕力がないから、石を運べるのだってちょっとずつで、思ったよりも時間がかかるし疲れる。それでも、広めの結界の中で拾える分でそれなりにしっかりした石組みができた。
お次は焚火の材料だ。早めに切って、乾かしておいた方がよく燃える。樹海部分で手に入る草をナイフでザクザクと刈り込んでいたら、奥まったところに赤い可愛らしいベリーが群生しているのが目に入った。
「うわぁ、美味しそう」
携行食だけじゃ味気ないよなって思ってたんだ。
そうだ、この長い葉っぱを編みこんで簡易的なお皿を作ってそれに携行食を盛り付ければ、お皿の緑とベリーの赤が映えて、きっと美味しそうに見えるに違いない。
そう思ったのがそもそもの間違いだった。
届かない。
どれだけ必死で手を伸ばしても、全然ベリーに届かない。
よせばいいのに、結界内に足先だけを残し、めっちゃ全身を伸ばしまくればベリーに届くんじゃないか、なんて浅はかな希望を持ってしまったのだ。
「もうちょっと……」
ここは根性でしょ! ほら、手が届いた!
そう思った瞬間。
「!」
あたしの体はぐらり、と大きく傾ぐ。
バランスを崩したあたしの体は、なんともあっけなく、結界の外に転がり出てしまった。
「いたたたた……」
情けない。ベリー一つ収穫するにもこのありさまだなんて。
しかもさっき刈ったばっかりの植物の切り口が肌にあたってそこそこ痛い。もちろんかすり傷だからたいしたことないし、すぐに結界の中に戻れば問題ない筈だ。でも、せっかくだから、ベリーだけは収穫していこう。
ナイフで手早く枝ごと切って、結界に戻ろうとした時だった。
「グルルルル……」
背後から、唸り声が聞こえてきた。
「……!」
いきなり体に襲い来る、桁外れのプレッシャー。間違いなく、これまであたしが対峙したことがある魔物とは格が違う。気配だけで、あたしにさらにまた一歩近づいたのが分かる程、強力な魔力を帯びた魔物だった。
震えそうになる足を奮い立たせ、あたしは結界に飛び込む。
だって転がり出ただけだ。一、二歩の距離だ。
だから。