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捜査本部の混乱

 事件は『新人作家連続殺人事件』と名付けられた。

 所轄の警察署に立てられた捜査本部では、連日喧々諤々と意見が交わされている。

 八島はともかく春子もアドバイザーとして放り込まれた。中でも驚いたのは、能力を参考に事件を解き明かす手法が認められていることだ。

 それも八島とここなし心が巻き起こし続けた騒動の結果と思えば、春子は警察の苦労と柔軟な体制に心から敬礼する思いである。

 さて、すでに捜査二日目ともなり、大分情報が集まっていた。


「死んだ作家たちの飲み物から毒物が検出された、か」

 正面の長机に座った初老の管理官が、捜査員たちを睥睨しながらおもむろに言った。

「はい。それを踏まえて被害者の飲み物に近づいた人物を探していますが、なにぶんパーティ出席者が多くて……特定できませんでした」

 捜査員が射すくめられて心なし声を落とす。

「被害者が一斉に倒れたタイミングを逆算するに、おそらく例の映像を上演中に毒を入れたと思われます。皆映像に集中していましたし、近づくのは容易だったでしょう。被害者たちは他の出席者と同様にテーブルにグラスを置いていました。しかし、あの暗闇の中どうやってグラスを見分けて毒をいれたのか、というと……」

 捜査員は不可能という言葉を口にせずに濁した。刑事である以上、『不可能』という言葉は禁句だからだ。

 代わりにその答えを出したのは八島だった。

「……千七百四十三円」

「は?」

 初老の管理官は、八島の突然の金額提示にポカーンとした。

 八島はそれにかまわず、立て板に水とばかりに話し始めた。

「おそらく、犯人は即席のブラックライトを使ってグラスの特定をしたんですよ。会場では紫色のスポットライトがランダムに客席を照らしていましたよね? あれがブラックライトです。一方グラスですが、おそらくグラスの中身が栄養ドリンクだったんでしょう。栄養ドリンクに含まれるビタミンB2はブラックライトが当たると蛍光を発しますから、それでグラスを見つけるには十分」

 つまり! と、ダーンと勢いよく机をたたいて八島は断言した。

「この犯行に使われた道具は、栄養ドリンク七百五十三円(十本入り)、即席ブラックライトを作るための食品用ラップフィルム三百五十四円と紫と青のマジックペン二本で五百四十二円、そしてセロハンテープ九十四円――――しめて、千七百四十三円!」

 ババン! と効果音が付きそうな勢いだった。八島の目がカッと見開かれ、むしろ眼力のおかげで説得力が増していた。

 応じるように「「おおっ!」」と、捜査本部にどよめきが走る。

 この力強く言い切る八島の値段宣言によって、いつも逮捕の糸口が掴めるのだ。この分では事件解決もすぐかと思われた。

 ……ついていけない春子はただ口を開けて眺めているしかできなかったが。

 柚島がこほんと咳払いして立ち上がりかけた捜査員たちを、手ぶりで座らせた。

「……ですが一つ問題があります」

 打って変わって八島の調子はトーンダウンした。

 驚いて捜査官がどもる。

「も、問題?」

「それは、先ほど申し上げた金額は、実は本当の金額の端数にすぎないということです」

「つまり?」

「実は、俺の『犯行に使われた道具の値段がわかる能力』によると、……この犯罪には十億五千万とんで千七百四十三円掛かっています」

 十億五千万……?! 捜査員たちは腰を抜かした。

「勿論、千七百四十三円分の道具が使われたトリックは俺の推測通りだと思います。だからこそ解せない。残りの十億五千万はいったい何に使われたんだ?」

 捜査本部に沈黙が落ちる。八島の独り言じみた疑問は、これからの波乱を象徴しているようで捜査員たちを不安に陥れた。


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