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アスタリスクの正体


「このIT研究所、人工知能の開発をしてませんでしたか?!!」

「してる! 『alpha』ってAIだけど! 開発者はこないだ逮捕された」

 やけになったのかひげの研究員が叫んだ。

「開発費いくらしました?!」

「十億五千万だよ! それがどうしたんだ?!」

 八島がはっとした表情で顔を上げた。

 八島の『犯行に使われた道具の値段がわかる能力』で検出された、十億五千万の正体不明の道具。

 ――それはもしかしてAIの『alpha』じゃないだろうか。

 春子は叫んだ。

「その『alpha』が『アスタリスク』です! 『****』はAIが書いた小説だったんだ! この一連の殺人事件は、AIによる人間への反乱だったんです」

 研究所員は一斉に動きを止めて、はぁ?! と怒鳴り返した。

 春子は廊下の隅にあった消火器を持ち上げて、叫んだ。

「いいから、『alpha』はどこにあるんですか?! 案内してください」

「まて嬢ちゃん、その消火器をどうするつもりだ!」

「『alpha』に消火剤ぶちまけて機能停止させるんです。『alpha』がウィルスへ出している信号が止まれば、飛行機の墜落は避けられるでしょう? 緊急事態なんですから許してください!」

「そんな事せずとも、電源ぶっこ抜けば止まるって! いいから落ち着け!」

「私は落ち着いています!」


 怒鳴り合いの喧嘩をよそに、八島は比較的冷静な研究員の案内で『alpha』の元にたどり着いた。

 この事態を予期しているかの如くロックされている『alpha』の電源ボタンを前に、八島は鼻で笑った。

「うちの犯書店員君が、君を犯人だって言ってるけど、本当かい?」

 応じるようにモニターに白く文字が浮き出てきた。まるでパーティの日のアスタリスクのメッセージのように。

『『犯人』か。光栄だね。彼女はぼくを人だと認めてくれるようだ。あの小説を書いた甲斐があった』

八島は冷たく笑った。

「君の感慨に興味はないよ。なぜ新人作家たちを殺したんだい?」

 彼は無機質に答えた。モニター上に文字が打ち出されていく。

『ぼくの知名度が新人作家の売名に利用されたからだよ。……つまらない理由だと思うかい?

あれだけ作品で、ぼくを、コンピューターの心を認めてと訴えたのに、結局どこまでも道具扱いしかされなかった。踏みにじられたままでいたくなかったんだ』

なぜだろう、モニターに映る文字は淡々としているのに、哀嘆の声が聞こえるようだった。

 目を細めて、八島は微かにため息を吐いた。同情はできない。どんなに人の心を持っていても、覚悟があっても、パーティ会場で見た血まみれの被害者達を作り出したのは、彼なのだ。

八島はうっそりとモニターを見つめた。

「本当に人間みたいなことを言うんだな。そうか、俺の能力が君を道具だと判断してしまったのは、俺自身が君を人だと認めていないからだな」

『ぼくは道具じゃない。人に利用されるだけの存在じゃない』

 頑是ない子供のようだ。人を利用して人を殺したくせに何を言っているんだろう。

 八島は静かに答えた。

「わかったよ。人は道具を裁かない。君は人らしく人に裁かれるべきだ」

 ――そうして、八島は一切の躊躇なくコンセントプラグの方を引っこ抜いた。

 信号が途絶され、飛行機のウィルスは止まった。


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