和神
――その後、天界にて。
薄暗い神殿内に、一人の若き男神と一つの物体がいた。
神殿の中では、その神の言葉と、物体の脈動の音が響く。
「――ふむ」
男神の目の前に機械を介して浮遊するその物体は、途轍もなく大きい楕円形の宝石のように見える。
それも、まるで血のように真っ赫な色。
無機物なのかそうでないのか、全くもって分からない程に厳かな威圧感を与えてくる。
「流石は最上級の魔神と言った処か。他に類を見ない素晴らしい能力であるな」
男神はその物体を見て、顎に手を当てつつ呟く。
白い線が所々に入った蒼白色の髪、銀灰色の和服、藍色の袴。
光の入り込まない蒼い双眸と、胸元に下げられた菱型の青宝石のネックレスが相まって、目の前の物質とは真逆に和やかで清々しい雰囲気を醸し出している。
だが、背中には実態の無い紫色の翼が一対、大きく広がる。
「ぬ、そうだ。血餓王は一体どう為った」
男神は思い付いたように後ろを向き、指を鳴らす。
すると、男神の目の前に丸く黒い塊が現れ、直ぐ様弾け飛んだ。
中には、ドラキュラが。
「――っはぁ、はぁッ! 血餓王、只今、ここにッ!」
「精神に乱れが在った様だな。何を侵した」
辛辣な口調で問い質す。
「はッ! L2地域にて、滅龍士と裂傷将と共に、三人の女人間と交戦! その最中、『裏切者』が乱入ッ、我々は撤退――!」
「――! …ふむ、成程。其れで汝は此の様な状態であると言う訳か」
「如何にも――ッ!」
男神は、冷静沈着だ。
――内心、驚いているようではあるが。
「成らば現在は休むが良い。次の戦闘に備えるのだ。我は暫く此処に居る」
「はッ! ではお言葉に甘えて…!」
ドラキュラはそう言い、一瞬の内に消える。
男神はまた物体の方を向き、今度は腕を組む。
「――矢張り、未だ檢べる可き事柄が多い様だな」
そう呟きながら、物体を眺める。
男神は、そのままじっと動かない。
――目の前に聳える紅血色の宝石の中心には、この世の公用文字である『トゥラスト文字』で、こう書かれていた。
【天を都と為る狂いし魔神よ 此の世界の終へと導け】
どうも、上野ウタカタです。
間話、和神です。
ちょいと伏線貼った程度。
…まぁ、どこがどうだかは後々分かるはずです。
次回は正規話。