人形の目は人間以上にモノを言う#1
「おい、頭どこだ。目ン玉見つかったぞ」
「ねえ足が折れてる。誰か直して」
「自分でやれ、頭はこれか?」
「バカちげーよ。女の頭だ、それ男だろ」
……
「…なんて会話だ」
少し離れた位置から弟達の様子を眺めていた長男のキョウスケは、思わずそう呟いた。
決して悪事を働いているわけではないのだが、バラバラ死体を前に話しているかのような内容だ。
知らない人間が見たら確実にそう思うだろう。
なんせ、彼らが囲む作業台に広げられているのはヒトのパーツだからだ。手もあれば、足(片方は折れてる)もある。
次男は目を手のひらで転がしているし、三男は頭を二つ抱えてるし、四男は体を元通りの位置に並べている。
かくいうキョウスケも、毛の束を丁寧に櫛で解いている。
人から見たら異常、しかし彼らからすれば日常の光景。
「…よし、目ン玉はまった。髪はできたかキョウ兄?」
彼らは、人形師。
人形を造り、直すのが仕事だ。
「ん、完璧」
フッと息を吐いて、金糸で造られた髪を揺らした。
「頭貸せ。今日中に直してしまうから」
次男のショウヤから投げてよこされた頭を難なくキャッチし、ちゃっちゃと髪を植え付けていく。
「キョウ兄、髪の毛終わったらあとやるよ」
その代わり明日の朝食お願いと、体のパーツを組み立てる四男リョウ。
「なんでだよ、朝食はヒョウガにでも…」
「もう寝てる。絶対起きるのは昼過ぎだぜ」
三男のヒョウガはいつの間にか作業台に突っ伏して夢の中に旅立っていた。
それを見て深いため息を漏らしたキョウスケは、長い金髪になった少女の青い目を軽くつついた。
「…わかったよ、ったく」
指先でもてあそんでいた頭をリョウに放り投げるキョウスケ。
「っ!?ちょ、投げんなよ!危ねーだろキョウ兄!!」
叫びつつもリョウはしっかり頭を受け止めた。
キョウスケはリョウの声に聞こえないフリをして部屋を出て行く。
「あと任せたぞー」
いつもの、当たり前の、日常だった。