プロローグ
夢を見ていた。
たった一人、暗闇の中に立っていた。
上も下も右も左も前も後ろも、闇に覆われていた。
──これは、夢なんだ
目の前にひとつの人形が座っているのが見えた時点で、そう思った。
細い金糸の髪に青いガラス玉の目。白い陶器で造られた肌は水色のワンピースに包まれていた。
彼女は人形だ。
たとえどんなに美少女でも、どんなに精巧に造られていても、その頬に自然な赤みが差していても、人形なのだ。
それが動くのは、夢だからだ。
カタリと無機質な音をたててこちらに手を伸ばす。
声を発しない唇が動き何かを伝えようとしている。
ツクリモノの目が揺れ何かを訴えようとしている。
その動きから、色から、何も読み取る事はできない。
何もわからないのは、自分に力が無いからだ。
彼女と話す資格が、自分には無いからだ。
触れればわかるなんて、そんなのただの思い上がりだ。
わかってても、手を伸ばした。
指先で軽く触れれば彼女は崩れた。
触れた場所から砂のように崩れた。
サラリと儚く、跡形もなく、呆気なく。
指の隙間からこぼれ落ち、手のひらには何も残らなかった。
ただ、軽い音が響き、足元に青いガラス玉が転がってきた。
彼女の目だ。
拾い上げたそれは崩れる事なく、鈍い輝きを放っていた。
これを使えば、彼女の気持ちがわかるかもしれないと。
ガラス玉を通して見た暗闇は、若干青みがかっていたけどやっぱり暗闇のままで。
──キミの世界を、見せて…
大事に握りしめたガラス玉の目は、世界を映し出した。
僕の見ている世界が赤く染まった、その時だけ───