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影への転移 3

どのくらい走っただろう。

「ちょっ、、ちょっとタンマ」

ぜいぜいと喘ぎ、汗を滴らせながらリューズが蹲る。

「わ、、私、、こんなに走ったの

 は、、初めてかも、、」

先を走っていたグランは足を止めリューズを見る。

グランは汗も出ていなければ息も全く上がっていない。

「ちょっと、、、休も、、、」

いくらインドア派だと言ってもリューズは痩せても枯れても白の一族である。

10キロや20キロ走ってもこうはならない。

確かに司祭の衣装というハンデはあるがそれにしてもグランは異常だ。

「あ、あなたタフね、、、」

息を整えながら呆れ顔でグランを見る。

当の本人は辺りを探っていたかと思うとなぜか岩肌に張りついている。

「? 何やってるの?」

こちらを向き指を1本口に立てている、黙ってろってことか。

じっと耳を凝らしている様だった。

なんなの?何やってんのこの人??

リューズの頭の中は疑問符でいっぱいだった。

妹のミューズも行動は奇天烈だった、似た者同士??

「水脈だな」

は?水脈?

素っ頓狂な顔をしているリューズに。

「この岩盤の向こうに地下水脈が通ってるみたいだ

 でもかなり厚いから俺の剣圧じゃびくともしないかな」

いや、いや、地下水脈が通ってる間の岩盤割ったら水が入ってくるんじゃない?

それって溺れるってパターンじゃ??

狭い地下通路で逃げ道なんて無いじゃない!

何言っちゃってんの??

リューズは完全否定だがグランの方はかなり本気だった。

いざという時の逃げ道は多い方がいい。

一見理解しがたい様な行動をとるが彼の行動はちゃんと意味がある。

理屈はどうでもいい、野生の感というべきものか。

「急ごう」

グランの言葉にリューズも頷き立ち上がる。


「あれ?、、あそこ、あれなに?」

通路の先に何かある、いや何かいる。

「人?」

前のめりに倒れている人が居た、あわてて駆け寄るがもう息は無いようだった。

「王子?王子だわ!この人」

着ている衣装と顔の印象でリューズが断定する。

「王子だって?」

思わずグランが聞き返す。

見たところ外傷は無い、だが王子というには、、、。

「どう見ても老衰でくたばった爺さんだぞ?」

カサカサに干からびた肌、刻み込まれた深い皺どう見ても老人だった。

リューズが手に握られている剣に気が付く。

「黒魔剣、、、黒魔剣よこれ」

「黒魔剣? ああ、この剣のことか

 持ち主と融合しちまってるな、、、」

黒魔剣と呼ばれた剣は真っ二つに断ち切られている。

「しかし、すごい切り口だな

 切った奴は相当の使い手だぞ」

グランはすっぱり綺麗に切られた切り口を見てそう言った。

彼も剣士の端くれである、剣で剣を切るという事の難しさは承知している。

剣と剣が交わり力任せに叩き斬れば自分の剣も傷つき

斬られた剣もこう綺麗に切れはしない。

よほどの力量を持った者が力ではなく技術で切ったに違いなかった。

この黒魔剣を切った剣士の剣は刃こぼれひとつしていないと断言できる。

「シェラ様だわ!

 シェラ様が黒魔剣を見逃すはず無いもの

 でもどうしてこんな物が、、、これは黒の一族が作った物なのよ

 持ち主の命を吸い力にする魔剣なの」

それでこの王子は魔剣に命を吸い取られて死んだのか、、、。

暫くその場に立ち尽くす2人、、とグランがこちらに近づいてくる足音に気が付く。

「誰か来る、、?」

岩かげに隠れ様子を伺う。


「なぁ、大丈夫か?

 勝手にこんな事してよ、、」

「なんだよ、だったらお前帰れよ」

黒の剣士の2人が歩いて来た。

トリンと呼ばれていた剣士とデインと呼ばれていた剣士である。

「俺はあの忌々しい白の魔剣士のせいでアロン様に降格を言いわたされたんだぞ

 このまま何もせず帰ったらほんとに降格させられちまわぁ!」

忌々しげに歯ぎしりする。

「なぁに幻羽人の都を潰しちゃいかんなんて妙な事を言うのは

 エクセル様くらいだ

 そのエクセル様にしたってぶっ潰しちまえばそれ以上は何も言わんさ

 黒の一族の拠点に森に囲まれた神殿より幻羽人の都の方が適しているのは

 誰が考えても解る事だ」

黒の一族?!

息を殺してリューズとグランは男たちの言葉を聞いていた。

黒の一族だというのかこの男達は?

だが黒の一族は異空間に幽閉されているはずだ。

「あの女が出てきたこの通路は幻羽人の都に通じているはずだ

 増援隊が来る前に俺達で落としておけば功績になる」

2人は倒れている王子に気付きその前で止まった。

「なんだこりゃ?」

「幻羽人か? へぇ、、、黒魔剣だぜ、これ」

珍しそうに眺めている。

「どうして黒の一族が??

 あいつら幽閉されているはずじゃ、、、」

小声でリューズがグランに囁く。

グランはどうするか考えていた、ここまでは脇道の無い一本道。

隠れる場所など無い、走って後退するか? いや、すぐ追いつかれるだろう。

自分1人で黒の剣士2人を相手に出来るか?

あの2人を見た限りやれなくはない気はする、、、だがリューズが居る。

彼女を守りながら戦うとなると、、、未知数だ。


「あの女の仕業か?」

「だろうな黒魔剣を持っている処をみると

 くさ達の協力者だろうな

 まぁ、あの女もくたばった事だし敵は取ってやったさ」

リューズの眼が見開く。

あの女?白の魔剣士?くたばった??

ムカサム王子を倒したのはシェラ様に間違いない。

くたばった?


―嘘よシェラ様が死ぬわけない!

 シェラ様は賢くて綺麗で優しくて誰よりも強いんだから!!

 黒の剣士に負ける訳がない!

「そんなの!嘘よ!!」

気が付けば飛び出していた。

「シェラ様が黒に負ける訳ないわ!!」

気が付けば叫んでいた。

「なんだこいつ?」

「へっなんでもいいじゃないか、殺っちまおうぜ」

トリンがにやにや笑う。

瞬時にグランはリューズの手を掴み走り出す。

「そうそう、せいぜい逃げろよ。のこのこ出てきたうさぎちゃん達」

目前の逃げる少年と少女はか弱い獲物としか映らない

ほらよっとトリンが剣を薙ぎ払う。

走り逃げるグランとリューズの後方に剣圧の爆風が炸裂する。

「もうひとつ!」

間髪をいれずデインがもう一振り。

「おいおい、一撃で殺すなよ?」

弄る気なのだ。

「解ってるって、まずは足1本」

デインが足の遅いリューズに切りかかる。

「お?」

グランの剣に邪魔される。

グランはリューズを背後に行かせデインの剣を引き受けた。

何度か打ち合うが全部デインの攻撃は弾き返される。

「ちっ!」

それを当初は面白そうに見ていたトリンだがだんだん妙だと気付き始めた。

「おいっ 何遊んでるんだっ?」

デインの表情からゆとりが消えている。

「幻羽人じゃ、、ないのか?」

渾身の一撃もさらりと受け流されむしろこちらの剣を抑え込まれる。

こんな細い少年のどこにこれだけの力があるのか?

「デイン、油断するな!」

「おうっ!」とっくに油断など無くなっている。


上手くリューズを庇いながらグランは先ほどの壁際にデインを誘導していた。

このあたり、、、と確認するのに気をとられ小石に足元をとられる。

「しまっ!」

よろめくグラン、好機を逃さずデインは打ち込んだ。

「もらったっ!」

ぐらついた体制を立て直すグランの目前でパアン!と大きな音がし

デインの剣が何かに遮られ跳ね返る。

後からリューズが手を掲げ遮閉保護魔法を掛けたのだ。

いわゆるバリアという奴である。

「リューズ」グランはちらりと後ろを見る。

「この小娘!白の魔術士か!」

「ちっ!白の魔術士がどうした!

 相性なんか関係あるかっ!要は実力だ!」

どこかで聞いたセリフを叫びデインが剣を打ち下ろす。

「きゃっ」

リューズから小さな悲鳴が上がり遮閉魔法にヒビが入る。

「へっ!見ろ、白の魔術士畏るるに足らずだ」

笑うデイン。

「もう一撃で粉々だぜっ!」

「待ってくれ!」

剣を大きく振り上げるデインにグランが叫ぶ。

「命乞いなら聞かね~ぜ」

「違う、教えてくれ本当に白の剣士を殺したのか?」

「答えてやる義理があるかよ」

吐き捨てるようにデインは言ったが

背後からトリンがちょいちょいと肩を叩きよく見ろと促す。

グランの後ろで真っ青になりふるふると震え

涙が瞳から溢れそうになっているリューズが見える。

面白い光景だ。


「と、思ったが俺は優しいからな、いいぜ教えてやるよ

 ああ、殺したぜ」

「結構いい女だったよな、そりゃ惨たらしく楽しませてもらったよ」

笑いながら黒の剣士達が答える。

グランはぎゅっと手を握りしめた。

「もう一つ、ミューズという剣士見習いを知らないか?」

「剣士見習い? さぁなぁ

 ああ、そういや異空間のゲートを開くために必要だった生贄ニエが居たな

 腹を裂かれて転がっていたあれの事かもな」

ぎゃははと面白そうに笑う。

ミューズも殺されていた。

リューズは思わず顔を両手で覆い伏せる。

助けられなかった、助けたかったのに何も出来なかった、、、御免なさいミューズ。

涙がはらはらと溺れおちる。

「なぁに、嘆かなくても貴様らも今から惨たらしく殺してやるぜ!」

2人の黒の剣士は同時に叫びながらグラン達に最大であろう剣圧をぶつけてきた。

寸前、グランはリューズを抱え彼らの頭上に壁を蹴り上がり

自分も同じ向きに剣を振る。

グラン一人の剣圧では分厚い岩盤は割れそうに無かった。

だが3人分の剣圧なら?

どんぴしゃのタイミングで3つの力が重なり合い分厚い岩盤を襲う。

ビシッ!音をたて岩盤にヒビが入る。


ヒビが入った岩盤は脆かった。

地下水脈の豪流の力で瞬く間に砕かれ水流が地下通路に流れ込む。

「なっ?」

「うわっ!」

予期もしなかった事に成すすべもなく黒の剣士達は流されてゆく。

グランは反対側の岩壁に己の剣を深々と突き立て強流に抗う。

思った以上の水圧かもしれない。

歯を食いしばり、右手で剣を握りリューズを左手で抱え糸を繰り出す。

糸は瞬く間に岩盤に張りつきグラン達を包み込み水から守る。

水流が収まるまで自分の糸が耐えきってくれることを後は願うばかりだ。


神殿の隠し扉からちょろちょろと水があふれ出ていた。

「なんだこの水?」

それに気付いた黒の剣士の目前でがたがたと隠し扉が揺れ、開かれ

デインとトリンが水と共に転げでてくる。

慌てて扉を2人が閉める、その姿はびしょ濡れであった。

「なにやってるんだ?トリン、デイン?」

共に来た黒の剣士に見とがめられ、ぜいぜいと息を切らしながらも

「いやっ!なんでもない」

「大丈夫だ、気にするな」

と、なんでもないアピールをする。

勝手に幻羽人の城を落としにいって白の一族のガキ共に軽くあしらわれた

なんて知られたら降格どころか懲罰物だった。






 



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