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影への転移 2

少し時間は戻り

夕暮れのスフスフ城。

高窓にグランは居た、彼に羽は無いが強靭な蜘蛛の糸を操る事が出来る。

壁をよじ登る事ぐらい容易い事だ。

「忍び込むくらいちょろいけど

 やっぱ、見つかったら拙いよなぁ

 けど、気になるし、、、」

ええい、ままよと血の臭いをたどる。

と、前方からどやどやと複数の衛兵が走る音がする。

「陛下の部屋の護衛が気絶させられていた?」

「賊が侵入したらしい」衛兵たちが口々に話す。

「陛下はご無事なのか?」

「解らん、ご無事ならいいが、、」

グランは当然発見、、、されなかった。

彼の姿は廊下に無い。

「危ね~」

彼は天井に張り付いていた。

こういう建物は天井が高い、とても高い。

完全に死角になっている、彼の糸はこういう役にもたつ。

廊下は衛兵の往来が激しいようだ、ならこのまま天井を行けばよくないか?

と、天才的な閃きでグランは天井を進むことにした。

衛兵たちの話をまとめるとグランの前に賊が侵入していたという事だ。

あの黒い男だろうか?

あの黒い男が国王まで拐かしたというのか?

だがグランにはあの男にそんな芸当が出来るとは思えなかった。

忍び込む様な奴は黒の長衣と黒マントなどでは来ない。

そんな恰好裾が邪魔で仕方ない。

グランは短いチェニックと簡易甲冑、ほぼ太腿まで素足である。

ゲートルとサンダルは履いている、しごく動きやすい格好だ。

あの格好でこの城に出入りしているという事はてっきりこの城の関係者

だと思っていた。

それとも別口の賊が現れたという事なのだろうか?

考えれば考えるほどこんがらがってくる。

「、、、考えるのやめよ」

グランは詮索するのをあっさり放棄した。



一方貴賓室から出てきたリューズは

廊下の装飾品の物陰で縮こまり震えていた。

近くには衛兵が行ったり来たりと忙しく動いている。

「ど、、どおしょう、、、

 勢いで出て来たけど、周り皆幻羽人ばっか、、、

 怖いよぉ、、、シェラ様ぁ、、、」

幻羽人ばかりなのはしごく当たり前の事なのだが当の本人は涙目である。

「で、でもミューズが、、、

 助けなきゃ、、

 あの子助けなきゃ、、」

小声で繰り返す、そう妹を助けるんだ、そう念じるように繰り返す。

「怖く、ない、怖くなんてない、しっかりしなきゃ」

震えが治まり瞳に意志が宿る。



「あ”、、」

手で顔を抑えるグラン、鼻血である。

ずっと天井に張り付き逆さまになっていたため頭に血が上ったようだ。

「う、、俺馬鹿かも、、」。

眼下に衛兵が居ないのを確認してから飛び降りる。

同時に背後からの気配を感じ身を躱す。

グランの居た場所に思いっ切りスタッフが振り下ろされた。

「えいっ」

空振りに終わったリューズは、どうしょうという顔で攻撃した相手を見る。

「ミューズ?!」

リューズを見てグランが名を呼ぶ。

「え?」

妹の名を呼ばれリューズの警戒心は薄れた。

「あ、いや違うな、でもその顔、、、」

「あなたミューズを知ってるの?」

「リューズか?」

「どうして私の名前、、、あ、ミューズに聞いたの?」

へたへたと座り込み先ほどの自分の行為に気付き謝る。

「ごめんなさい、てっきり幻羽人だと思って

 上から降ってきたし」

「? いや、一応幻羽人だけど?」

グランの返しを全く聞かず安堵するリューズ。

「よかった~、私幻羽人って怖くって

 だって羽で全部を決めるんでしょ?」

「あ、ああそういう意味なら

 幻羽人じゃ無いな」

グランもまた羽の魔法から離れた存在である。

「けど、いきなり殴りかかるってのはどうよ?、、、あ、、」

つ~っと鼻血が垂れる。

「あ、ごめん掠っちゃった??」

勘違いするリューズ。

「いや、これは、、」

「掠ったんじゃないの?」

「そんなにトロかね~よ、

 これは、その、、、長い事ぶら下がってたから、、、」

鼻を押さえながら己の無様な失敗を再自覚するグラン。

その顔はみるみる赤くなる。

「くそっドジったぜ

 これじゃもう血の臭いを追えないもんな、、」

「血の臭いって?」

話が見えずリューズが尋ねる。

「黒マントの男を追ってたんだ

 ミューズを連れていった奴だ」

その言葉にリューズの顔が引きつる。

「それってどういう、、、?

 あなたもミューズを探してるの?

 血の臭いってどういう事??」

グランを問い詰めるがそれより大事なことに気が付く。

「ううん、それよりあなたミューズを探せるの?」

「いや、この鼻じゃもう、、、」

情けなそうにそう言うグランの腕をリューズは強く引っ張った。

「来て、治したげる」

「おい?

 いや、治すったって無理だって」

引っ張られながらそういう問題じゃないんだとグランが言う。

「これでも私は司祭なんですからね

 攻撃魔法以外の白魔法は使えるのよ

 、、、一応」

「なんだよその一応って?」

「まだ未熟だから成功するのに集中と時間が要るのよ」

要は半人前なのだ。

と、ぴたっとリューズが止まる。

「これ以上先に行けないわ、あっちに行きましょう」

見ると先に衛兵の姿がかすかに見える。

衛兵を見つけるたびにリューズは方向を変えた。

グランはいざとなれば衛兵を気絶させてもいいんだけどなぁ

と思いつつリューズに付き合う。

暫く逃げながら漸く人気のない扉を見つける。

「あの部屋、大丈夫かしら、、」

「大丈夫も何もなんか後ろから大勢来てるぜ?」

どやどやと後方から大人数の足音が近づいてくる。

真っ青になり悲鳴を噛み殺しリューズはグランを見つけた部屋に引っ張り込む。

中に明かりは無くしんと静まり人の気配もない。

「よかった誰も居ないわ、ここなら」

此処なら安心して集中できそうだ。

「じゃ、、、あら?何?」

回復魔法を掛けようとグランを見ると、壁に耳を近づけどうやら外の様子を

探っているようだった。

ちょいちょいと、グランの指がリューズも聞けと呼ぶ。

「衛兵を気絶させたのは今日来た白の剣士だって?」

「ああ、さっき一人が気が付いてそう言ったらしいぞ」

「もう一人の白の司祭も部屋に居なかったらしい」

「どういう事だ?」

「解らん!ともかく探せっ!」

リューズは今得た情報が理解できず困惑する。

「どういう事?どうなってるの??」

「なるほど、白の剣士が先口の賊か

 ってことはやっぱあの黒い奴は城の関係者だな」

グランがあっさり理解しそう話す。

「え?」

「つまりミューズを浚った奴は王の配下かなんかだって事だ

 ミューズを浚って何をするつもりか知らないけど

 白の剣士も何かに気付いて王を調べようとしてるんだろう

 王が何かを企んでるとしたら

 俺達も早いとここの城から脱出した方がいいな」

グランが解説する。

リューズはグランの理解の速さにすっかり感心していた。

自分とあまり年は離れていない様に見えるのにすごい。

これが外の世界に居る同族なんだ、と。

正確には同族でもなければ同じ年でもないのだが。


そのグランは逃げ込んだ部屋を調べていた。

薄暗くリューズにはよく見えないが豪華な造りの部屋だった。

グランの瞳は薄暗い中でも少し目を凝らせ光に照準を合わせればよく見ることが

出来る。

蜘蛛族は身体面に色々特化している、その恩恵をしっかり受け継いでいた。

調度品も豪華な物だった。

「かなり身分の高い奴の部屋か、、?」

と、微かな空気の流れを感じ取る。

扉は閉ざされ窓も閉ざされている、という事は。

「どこかに抜け道があるのか?」

グランの言葉にリューズはきょろきょろするが当然風も感じられないし

部屋の様子も暗くてよく解らない。

「え?流れ?え??」

部屋を調査し始めるグラン、その様子でもう鼻を押さえていないのに気が付く。

「あなた、鼻血は??」

「んなもん、とっくに止まってるよ」

「じゃあ、臭いは?」

「ダメ」

即答しながらグランは風の流れの元を探す。

「この辺り、、、か?」

蹲りなにやらごそごそしだす。

「ね、ねぇ、なんか扉の前に大勢集まってるみたいよ?」

その部屋は王の部屋だった、今まさに衛兵たちが集まり踏み込もうとしていた。

「あった抜け道だ、急げ!」

間一髪、グランとリューズは中に逃げ込み抜け道の扉を中から閉める。


「よし、大丈夫みたいだな」

しばらく様子を伺っていたが衛兵たちは抜け道の事は知らない様で

後を追ってくる気配は全くない。

グランは目を凝らし抜け道の先を見る。

どうやらこの抜け穴には所々に明かりが灯っているようだ。

という事は現在使用されているという事だ。

「深そうだな、、どこへ続いているんだ?」

「ねぇ、シェラ様も此処を通って行かれたと思う?」

リューズが尋ねる。

「シェラっていうのか、その白の剣士?」

「ええ、あっ

 そう言えば私、まだあなたの名前知らないわ」

自分の名を知られていた為自己紹介もしてなかった事に気が付く。

「グラン」

微かに笑ってグランは名乗った。

「グランね、改めて私はリューズ、ミューズの双子の姉よ

 ねぇ、ミューズも此処を通ってるの?」

リューズも改めて名乗り、期待を込めて聞いてみる。

「さぁ?」

グランの答えはリューズの期待を裏切る物だった。

そう言えばさっきも即答でダメと言われたような??

「え?だって

 鼻、治ったんでしょう?」

もう臭いを追えるはずじゃないのか?

「鼻血は止まったけど自分の血の臭いは消えないだろ

 当分使い物にならないと思うぜ

 鼻がよすぎるってのも不便なんだよな、、、」

なるほど、彼の鼻の中は彼の血の臭いでいっぱいという事か。

「え~~~っ!」

リューズは思いっきり落胆の声を出す。

「だけど、王を調べていたその白の剣士なら

 何かを掴んでると思うぜ」

役に立たず悪かったなと悪びれもせずグランはそう言った。

「ミューズを連れて行ったのも王の配下だ

 隠し通路の使い道なんてそうは無い

 必ずこの先に居るはずだ」

戦乱の世なら逃げ道という事もある。だが黒の一族の居ない今

幻羽世界に戦争という物は無い。

幻羽人の諍いは羽の優劣で結果が出てしまうのだから。

「行こう」

「そうね」

グランの言葉にリューズは大きく頷き2人は駆け出した。


-ミューズ待ってて

 今、助けに行くから!


 

























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