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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
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3. 指輪の保管場所

「わ、すごい……」

「持ち出し禁止みたいだね」


 地下の壁は木の根の部分がむき出しになっていて、かなり頑丈な造りになっているようだ。天井には木の枝が伸びて葉になっているが、その合間から光る花が咲いていて明るくなっている。


 思っていたよりも厳重な造りになっていて、ティアラローズは近づいていいのだろうかと様子を伺う。

 しかしキースはまったく気にしていないようで、「鍵までかけてんのか」と言いながら鍵を外してパラパラ本を見ている。


「キース、もっと丁寧に扱った方がいいんじゃ……」

「大丈夫だって。葉の本だから、修復も簡単だし」

『王様、修復作業を舐めないで下さい!!』


 キースの言葉に、司書がくわっと目を見開いた。


『確かに王様からしてみたら修復は簡単に見えるでしょう。痛んだ葉を木につければ太陽の光で成長しボロボロになった部分が健康な葉に戻りますからね。ですが! こまめに観察をしないと葉の形がいびつになったり、予想と違う方向に育ってしまったりするんです。かなり神経を使う作業で――』

「わかった、わかったから! 丁寧に扱うから少し黙れ」


 マシンガントークに耳を塞いだキースに手招きされて、ティアラローズは苦笑しつつ書見台の椅子にちょこんと座る……が、猫の姿なので高さが足りない。


「それだと読むのが大変だ」

『アクア!』


 アクアスティードがティアラローズを抱き上げ、書見台の椅子に座ってその膝に猫の姿のティアラローズを乗せた。

 これなら書見台の本を読むことができる。


 ――恥ずかしいけれど、仕方がないわ……!


 そして、いざ!

 妖精王の秘密を知ることにドキドキしながら、ティアラローズは肉球部分で本に触れる。きっと、知りたい情報が載っているはずだ。


 ――取り扱いには注意しなくてはね。


 しかしそこで、はたと気づく。

 ティアラローズは首を後ろに向け、自分を膝に乗せているアクアスティードへ助けを求めるような視線を向ける。


『……猫の手だと上手くページをめくれません』


 めくれはするだろうけれど、本を雑に扱うことになるし、最悪破いてしまったり破損させてしまう恐れがある。


「私がめくろう」

『ありがとうございます』


 ティアラローズはぱっと表情を輝かせて、アクアスティードがめくっていく本を見ていく。本の横には、キースが開けた花の鍵が置かれている。


『目次があるのね。ええと……妖精王の誕生?』


 ひとまず、最初から読んでいって問題なさそうだ。

 書かれていたのは、妖精王になったら自分の居住を整え、指輪を作ること。そして生まれた妖精と信頼関係を築くことが大切とある。

 そういえばキースも妖精たちに指輪のことや地図の見方などを教えていたなと思い返す。


 ――わたくしがどうしたいかを伝え、常識的なことをお菓子の妖精と話していくことも大事ということね。


 ティアラローズはなるほどと頷く。

 現状は国民とも仲良くしているし、特に問題があるようには見えないが――お菓子の家を食べては作り直したり、お菓子のことしか頭になかったり……放っておくと、のちのち大変なことになるかもしれない。


「ここに指輪を置く部屋の作り方が書かれているね」

『あ、本当ですね』


 まずは部屋を用意しその後に指輪を作る、と書かれている。

 どちらの作業も魔力を扱って進めなければいけないので、ティアラローズはドキリとする。正直に言って、魔力操作はそんなに上手くない。


 ――できるかしら?


 神妙な顔で本を見ていると、アクアスティードのくすりと笑う声が耳に届いた。そして額をくすぐるように撫でられる。


『アクア?』

「さすがに妖精王が使う力だけあって、難しそうだ」

『ですよね……』


 魔法の得意なアクアスティードにそう言われると、とたんにティアラローズの中で難易度が上がっていく。

 しかしティアラローズの頭の中のぐるぐるは、キースがパン! と手を叩いた音でストップした。


「考えるより実践ってことで、お菓子の家に行くぞ」




 司書は書庫の整理をするということで、ティアラローズはアクアスティードとキースを連れ、転移でお菓子の家へやってきた。猫の姿のままなので、ティアラローズはアクアスティードに抱っこしてもらっている。

 すると、お菓子の妖精たちがわっと集まってきた。


『王様だ~!』

『いらっしゃーい!』

『お菓子をどうぞー!』

『一緒に紅茶も!』


 妖精たちはきゃっきゃと楽しそうに、すぐお茶会の準備を始めた。どうやらお菓子を食べることが妖精たちにとっては挨拶のようだ。



 ティアラローズのお菓子から生まれた、お菓子の妖精。

 ハニーピンクの髪と、水色の花の瞳。生まれたお菓子をモチーフにしたパティシエの制服に身を包み、それぞれ製菓道具を一つずつ持っている。

 最初のお菓子の妖精はショートケーキから生まれ、そのあとはクッキーやザッハトルテなどいろいろなお菓子から生まれた。

 人間にも友好的で、たくさんの人に祝福を与えてくれている。その効果はお菓子作りが上達するというものなので、マリンフォレストの製菓技術がさらに向上するのではとティアラローズは楽しみで仕方がないのだ。



 ティアラローズは『素敵すぎるわ』と目を輝かせ、妖精が用意してくれた高めのクッキーの椅子に腰かける。猫でも問題のない高さだ。

 ここはお菓子の家なので、建物はもちろん家具もすべてお菓子で作られているのだ。


「お前な、ここを自分の城にするために来たんじゃないのか」

『それはそうだけど……まずはお菓子の妖精と交流を深めるのも大切じゃない!?』

「つまり菓子が食べたいんだな……」


 呆れたキースの言葉に、アクアスティードが「いいじゃないか」と笑う。


「確かにお菓子の妖精と交流を持つのは大切だし、歓迎してくれているんだ。それに、キースだって妖精が作ったお菓子は好きだろう?」

「……ったく、仕方ねえな」


 アクアスティードの言葉に、キースが頭をかきつつもテーブルまでやってきた。

 キースがどかっと椅子に座ると、アクアスティードもティアラローズの隣に腰かける。キースはちょうど向かい側だ。


 全員が座ったのを確認すると、妖精が森のワゴンにお菓子を乗せてやってきた。

 車輪の部分は柔らかい木の枝を丸めて作っていて、手元には花のランプ。持ち手の部分は木の枝でしっかり作ってある。


『わ、可愛いわね。でも、お菓子でできてないわね……どうしたのかしら?』

「そういや、うちの妖精たちがせっせと作ってたな。確かお菓子をもらうのと交換条件だったか」

『森の妖精たちが作ってくれたのね』


 お菓子という報酬があったようだけれど、ティアラローズからも改めてお礼を告げようと思う。森の妖精たちには、マリンフォレストへ来た婚約者時代からお世話になりっぱなしだ。


『じゃ~んっ! 王様のための、スイーツフルコース!』


 全員の前に並べられたのは、フルーツゼリー、マカロン、スコーン、ケーキ、クレームブリュレだ。

 フルーツゼリーの中にはカットした林檎に小花がつけられていて、まるで花畑みたいだ。マカロンは下の生地の部分がチョコレートになっていて、濃厚な味わいになっているだろう。スコーンはアールグレイの茶葉が使われいて香りがいいし、ケーキはお菓子の妖精が腕に縒りをかけた上にマリンフォレスト特産の苺がふんだんに使われているショートケーキだ。クレームブリュレは表面が輝いていて、早くスプーンで砕いてみたい。


『わあぁ、すごい、すごいわ! 森の花も使っているのね。見た目も華やか』


 ティアラローズはテーブルに乗り出すような状態で、スイーツのフルコースをガン見する。とても美味しそうな匂いだけではなく、見た目でも虜にさせられてしまう。


 ――さすがお菓子の妖精ね!


 楽しくティータイムが始まると、最初は不貞腐れていたキースも美味しそうに食べている。それどころか、おかわりまで要求している。どうやら妖精のお菓子がかなり気に入っているようだ。

 アクアスティードも「見た目も美しいね」と言いながらゼリーを食べている。

 ティアラローズはといえば、猫の姿のままではスイーツを上手に食べられないので、人間の姿に戻って通常サイズのクッキーの椅子を用意してもらった。


 今度はルチアローズとシュティルカとシュティリオも連れて来てあげようとティアラローズが考えていると、お菓子の妖精が『そういえば』とティアラローズを見た。


『何かご用だった~?』

「そうだったわ! わたくしったら、すっかりお菓子に夢中になってしまって……」


 ティアラローズは口元を拭いて、お菓子の妖精たちを見る。


「お菓子の家に、指輪を設置する部屋を作りたいの。……いいかしら?」

『指輪?』

『あ、それ森の妖精に聞いたやつ!』

『作って~!』


 どうやら森の妖精に聞いて指輪の存在を知っていたらしい。お菓子の妖精たちは嬉しそうに、『お菓子でできた指輪かな?』と話している。


 ――それだと食べて指輪がなくなってしまうわね。


 確かにお菓子でできた指輪は美味しそうだけれどと、ティアラローズは笑う。


「許可をありがとう、妖精たち」

『このお菓子の家は王様のものだからね!』


 だから何をしても問題ないと、妖精たちが笑う。さらに手伝いが必要であれば、お菓子で増築もしてくれるらしい。



 ティアラローズはふたたび猫の姿になると、目を閉じて集中する。自身の魔力を使い、お菓子の家を動かすのだ。


 ――お菓子の家の、指輪の保管場所。


 どこがいいだろう。

 地下? 二階? それとも、お菓子を作るための厨房? いろいろな場所を思い描いていると、ティアラローズの脳裏にお菓子の家の全貌が浮かんできた。

 お菓子の家は三階建てだとばかり思っていたけれど、どうやら屋根裏部屋があるようだ。

 魔力を巡らせると、家のことがよくわかる。


 ――屋根裏は、特に使われていないのね。


 丸い小窓がついていて、そこから外を見ると王城が見えた。その景色は圧巻で、ティアラローズは一目で屋根裏部屋が気に入った。


『……ここに決めた』


 ティアラローズは口元に弧を描き、お菓子の家に魔力を注いでいく。

 最初は上手くできないのではと不安だったけれど、猫――お菓子の妖精王の姿になり、お菓子の家のことを考えていると自然と魔力を扱うことができた。

 もしかしたら、これがキースの言っていた自然にわかるということかもしれない。


 あっという間に、屋根裏部屋が指輪の保管庫になった。


『ふぅ……』


 達成感と、魔力を多く使ったことで、ティアラローズはへにゃりと床に座り込んだ。自分で思っていた以上に、妖精王の力を使うのは大変だったようだ。

 へたりこんだティアラローズを、アクアスティードが抱き上げてくれた。


「大丈夫? ティアラ」

『はい! ちょっと疲れてしまいましたが……無事に指輪を置く部屋ができました』


 ティアラローズが微笑むと、アクアスティードは「よかった」と頭を撫でて額に優しいキスをしてくれた。

 しかしキースがそれに割り込んできた。


「人前でいちゃついてるんじゃねえ」

『にゃっ!?』


 キースに首根っこを掴まれそうになったティアラローズだが、アクアスティードが一歩後ろに下がって回避した。


「ティアラは私の妻なんだから、これくらいはいいだろう?」

「俺は祝福してる森の妖精王だが?」


 いつものごとくアクアスティードとキースの間に火花が散ってしまい、ティアラローズは慌ててストップをかける。


『何やってるんですか、二人とも!』

『そういうときは、クッキーでも食べて落ち着きましょう~』


 ティアラローズが止めるのと同時に、お菓子の妖精がアクアスティードとキースの口にクッキーを突っ込んだ。ティアラローズに甘い花を無理やり食べさせる森の妖精のようだ……。

 お菓子の妖精に仲裁された二人は、クッキーを食べながら「仕方ない」と苦笑する。


 ぺろりとクッキーを平らげたキースが、「あとは……」とティアラローズを見た。


「どんな指輪にするか決めるだけだな」

『しっかり考えてから作らないといけませんね』


 ティアラローズはキースの言葉に頷き、どんな指輪がいいのか考えてみるが……すぐに浮かぶものではない。

 国を助けるものがいいのか、個人を助けるものがいいのか、それともそれとも……考えだしたらきりがなさそうだ。


「別に急ぐものじゃないから、ゆっくり決めるといい。私でよければ、いつでも相談に乗るから」

『ありがとうございます、アクア』


 アクアスティードが一緒に考えてくれるのなら百人力だと、ティアラローズは力強く頷いた。

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