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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第14章 王様のお仕事
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1. 王様のこと

 春が終わり、夏がやってくる。そんな過ごしやすい初夏。マリンフォレスト王国は新たにお菓子の妖精が増え、より活気のある国になっていた。

 どこまでも澄み渡る空の青に、水平線の見える海の深い青。森は多様の光でぐんぐん育つ木々の緑が人々を癒し、王都の中央にあるお菓子の家は――国民たちをわくわくさせている。


「……それにしても、完成したと思ったらまた食べてしまったのね」


 王城にある自室から街を見て呟いたのは、この国の王妃ティアラローズだ。その視線の先には、屋根の部分が食べられてしまったお菓子の家……。

 このお菓子の家は、お菓子の妖精王の城――つまりお菓子の妖精王となったティアラローズの拠点といえる場所だ。

 お菓子の妖精たちがせっせっと作っているのだが、できあがったらすぐに『美味しそう!』と食べてしまうので、なかなか……いや、永遠にできあがらないのだろう。


「これじゃあ、雨が降ったら大惨事ね」



 お菓子の家を楽しそうに見ているのは、ティアラローズ・ラピス・マリンフォレスト。

 ふわりとしたハニーピンクの髪と、ぱっちりした水色の瞳。

 水色を基調とした白のレースのドレスを着ており、腰の部分には花があしらわれている。どんなドレスも着こなしてしまう容姿とスタイルで、ティアラローズに憧れている令嬢も多い。

 星空の王であるアクアスティードの魔力を上手く制御できず化け物になってしまうという事件もあったが、お菓子の妖精に魔力を与えることで力を上手く使えるようになった。今では平和な日々を過ごしている。

 そして一握りの人しか知らないが――ティアラローズはこの乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』の悪役令嬢に転生した人物だ。



 遠目ながらも屋根ができあがる様子を見ていると、「オリヴィアです」という声とともに部屋にノックの音が響いた。


「どうぞ」

「失礼します」


 ティアラローズがすぐ入室の許可をすると、ティーセットとスイーツの載ったワゴンを押すオリヴィアがやってきた。その後ろにはアクアスティードと手を繋いでるルチアローズ。さらにその後ろにはシュティルカとシュティリオと手を繋いでいるレヴィが続いている。

 大行列になっていて、ティアラローズは思わず笑う。


「みんなで来たのね」

「アクアスティード陛下もお仕事が一段落したようなので、ご一緒にティータイムをと思いまして」


 ティアラローズの問いにオリヴィアが笑顔で頷き、アクアスティードが経緯を話してくれた。


「ルチアの稽古が終わってね。それと、ちょうどルカとリオが昼寝から起きたところだったから連れてきたんだ。もうティータイムの時間だったからね」



 家族とのティータイムを楽しみにしている、アクアスティード・マリンフォレスト。

 ダークブルーの髪と、王を示す金色の瞳。穏やかな眼差しで家族を見つめる様子は、優しい夫でありよき父親だ。

 仕事を早く終わらせ、ティアラローズや子どもたちと可能な限り一緒にいる時間を取っている。



「お母さま!」


 ルチアローズがだっと走ってきて、ティアラローズのドレスに飛び込んできた。それを受け止めて、頭を撫でる。

 それに続いて、シュティルカとシュティリオも「まま」とティアラローズの下にやって来た。

 ティアラローズはしゃがんでシュティルカとシュティリオの頭を撫でて、「おやつにしましょうね」と微笑んだ。



 騎士になる! が口癖になっている王女、ルチアローズ・マリンフォレスト。

 濃いめのピンクの髪に、金色がかったハニーピンクの瞳。髪は両サイドでお団子にしていて、リボンで飾ってある。

 とてもお転婆で、木登りをしてタルモをハラハラさせたりしている。



 双子の兄、シュティルカ・マリンフォレスト。

 アッシュピンクの髪と、右目が金色、左目が水色のオッドアイを持つ。王である証の金色の瞳を持っている双子は、シュティルカが月の魔力を持つ。

 魔力の量もとても多く、左腕に制御するための腕輪をつけている。



 双子の弟、シュティリオ・マリンフォレスト。

 アッシュブルーの髪と、右目が水色、左目が金色のオッドアイを持つ。シュティリオは太陽の魔力を持っており、双子同士仲が良い。

 シュティルカと同じように、右腕に魔力制御の腕輪をつけている。



「はああぁぁ~、幸せを手にした悪役令嬢とその家族……まさに一枚の絵画! この光景がすでに国宝級ですわっ!!」

「オリヴィア、ハンカチを」

「ありがとうレヴィ」


 ティアラローズたちの様子を見ていたオリヴィアは、ティーセットを準備する手を止めて膝をついた。過呼吸寸前だ。

 レヴィがオリヴィアの鼻にあてたハンカチが、血に染まった。



 乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』が大好きすぎる、オリヴィア・アリアーデル。

 ローズレッドの髪に、らんらんと輝くハニーグリーンの瞳。深い赤を基調にしたドレスと伊達眼鏡を身につけている。

 この世界のすべてが推しで、幸せな日々を謳歌している真っ最中だ。興奮が最高潮に達せなくても鼻血が出る体質を持つ。

 今は産休中のフィリーネに代わり、ティアラローズの侍女をしている。



 オリヴィアの鼻血予測100%の執事、レヴィ。

 黒髪と、オリヴィアの髪色と同じローズレッドの瞳。執事服を優雅に着こなし、その懐には何枚ものハンカチを忍ばせている。



 鼻血を出したオリヴィアとその処理をしているレヴィを見て、ティアラローズは苦笑する。……まあ、もう慣れたけれど。


「本日は鈴カステラをご用意しました。小さく作ったので、シュティルカ殿下とシュティリオ殿下も召し上がれますよ」

「味見をしましたけど、とっても美味しいんですよ」


 レヴィが鈴カステラの載ったお皿を並べ、オリヴィアが紅茶を淹れながら頬をほころばせる。どうやら今日のおやつはレヴィが作ったようだ。

 ソファに座ったルチアローズが、さっそく鈴カステラをぱくりと食べる。その美味しさに、「ん~」と声をもらして両手を頬にあてている。


 ソファはティアラローズとアクアスティードが隣同士に座り、向かいにルチアローズとシュティルカとシュティリオが座っている。

 オリヴィアは一人掛けのソファに座り、レヴィが給仕などを担当してくれている。侍女だけれど、こうしてお茶を一緒にすることが多い。


 シュティルカとシュティリオも自分の手で鈴カステラを取って、口に運んだ。


「上手に食べられたわね」

「おいし!」


 にぱっと微笑むシュティルカとシュティリオは、鈴カステラが気に入ったようだ。作ったレヴィのことも、キラキラした目で見ている。


 ――お菓子の力はやっぱり偉大ね……!


 さすがはスイーツ大好きなティアラローズの子どもたち。みんなお菓子が大好きなようだ。きっと将来的にもお菓子好きだろう。



 ゆったりお茶を飲んで過ごしていると、オリヴィアが手帳を取り出してティアラローズに声をかけた。


「ティアラローズ様のスケジュールですが、三日後からでしたら時間が作れますわ。エリオットに確認もしましたので、アクアスティード陛下の予定も問題ありません」

「本当? ありがとう、オリヴィア」

「キースのところへ行くんだったね」

「はい」


 アクアスティードも承知しているので、オリヴィアの言葉に頷いた。

 ティアラローズがお菓子の妖精王になったことに関して、役目などがあるのかどうか、妖精王であるキースに教えにもらいに行こうと思っているのだ。

 普段はティアラローズの瞳は水色だけれど、獣――猫の姿になったとき、その瞳は金色になる。


「キースに聞くというのが癪だけれど……」


 若干不機嫌そうに言うアクアスティードを、ティアラローズは「まあまあ」と宥める。

 アクアスティード的には、クレイルかパールに聞きに行けばいいのでは? と思っているのだろう。


「わたくしを祝福してくれているのは、キースとパール様ですから。それに、キースのお城には書庫があるでしょう? 何かあったら調べ物もできて、ちょうどいいと思ったんです」

「……そうだね。私の我儘で、ティアラに迷惑をかけたくはないからね」


 仕方がないと、アクアスティードがティアラローズの髪に指を絡ませる。

 それを見たルチアローズが、「わたくしも!」とソファから降りてティアラローズの下へやってきた。


「お母さまの髪、ふわふわ!」


 どうやらルチアローズはティアラローズの髪が大好きなようだ。ルチアローズの髪はアクアスティードに似ているからかストレートなので、ふわふわしている髪にちょっとだけ憧れがあるらしい。

 ルチアローズはティアラローズの髪を一房手にして、せっせと三つ編みにしようとしている。しかし不器用だからか、それとも五歳児だからか、上手くできていない。


「ん~、できない」


 しょんぼりするルチアローズに、ティアラローズは「練習したらできるようになるわ」と手本を見せる。

 ゆっくりと三つ編みにしていく様子を、ルチアローズだけではなくアクアスティードも面白そうに見てくるので……なんともやりづらい。


「アクア、見すぎです。わたくしだって、そんなに上手くないんですよ?」

「そう? 十分上手いけどね」


 気付けばルチアローズだけではなく、シュティルカとシュティリオもやってきてティアラローズの髪に触っている。

 双子は小さいので髪を結ぶことすらまだできないけれど、一緒に遊んでいるだけで楽しいようだ。笑顔で「ふわふわ~」とルチアローズのまねっこをしている。


 そんな一家団欒の様子を、鼻をハンカチで押さえたオリヴィアが堪能していた――。



 ***



 まずは先達に学べということで、ティアラローズとアクアスティードは王城の裏手の山の中にあるキースの城へやってきた。

 キースの城にある植物は珍しいものが多くあり、いつ来ても楽しませてくれる。森の妖精たちがジョウロで水をあげ、せっせとお世話をする姿も可愛らしい。

 ティアラローズが来たことに気づいた森の妖精たちが、『歓迎しなきゃ!』と言って森のお菓子を用意してくれた。



「妖精の王の仕事が知りたい?」

「わたくし、妖精王について何もわからなくて……」


 ティアラローズがお菓子の妖精王として、自分にすべきことがあるのかしらもわからない……ということをキースに相談する。

 本当は王城の図書館に文献か何かあればよかったのだが、妖精王の仕事、などという本があるわけもない。


「仕方ねぇ、教えてやる」

「ありがとう、キース」



 ぶっきらぼうに言いつつも楽しそうな表情を見せる、森の妖精王キース。

 腰まで長い深緑の髪と、王の証である金色の瞳。腰に扇を差し、比較的ゆったりした服装に身を包んでいる。

 ティアラローズのことを祝福している妖精王で、いろいろとちょっかいをかけてくることも多い。



 花のソファに腰かけたキースは、「何があったか……」と思案する。

 ティアラローズはその様子を見ながら、キースが普段していることを思い返す。妖精王として何かしていただろうか? と。


 ――これといって、特にないような……。


 普段から自由気ままに過ごしているので、キースが仕事をしているところはいまいち想像できなかった。

 強いてあげるならば、森の妖精たちに植物のお世話の仕方を教えたり……といった先生のような役目だろうか。


「ああ、そうだ。あれが必要だ」

「あれ?」


 キースの言葉に、ティアラローズとアクアスティードは顔を見合わせる。どうやら何か必要なものがあるようだ。

 ちらりとアクアスティードを見て、キースは「まあいいか」と言い、言葉を続ける。


「お菓子の妖精王の指輪が必要だ」

連載再開です。

読んでいただきありがとうございます~!


今月の15日に、小説13巻が発売しました!(オリヴィアのスピンオフ『悪役令嬢は推しが尊すぎて今日も幸せ』2巻も同時発売です。

加筆修正と番外編を収録しているので、どうぞよろしくお願いします!

また、発売記念でキャンペーンをしていただいているので、そちらもご参加いただけますと嬉しいです。

詳細は活動報告にて……!

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