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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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15. お菓子のお城を作ろう!

「あ~!」


 甘くいい匂いにつられて、ハルカはぐぐーっと両手を伸ばす。

 掴もうとしているのは、目の前にあるたくさんのお菓子。二歳のハルカも、すでにお菓子の美味しさを知ってしまっているのだ。


 アカリはそんなハルカを抱きかかえ直す。


「駄目よ、あれは妖精さんのお家になるんだから」



 アカリとハルカがいるのは、王城からほど近い街の中。

 今ここで、お菓子の妖精の住処を作っている最中だ。

 妖精の王は、それぞれ自分の住処を持つ。キースは森の中の城、クレイルは空の上の神殿、パールは海の中の宮。

 お菓子の妖精の住処はお菓子が溢れる街の中、その形態は――お菓子の家だ。



 お菓子の家づくりの材料は、もちろんお菓子だ。

 チョコレートでできたドアに、クッキーのレンガ。柱の部分はプリッツになっていて、照明飾りは飴細工。

 食べることができるように作られてはいるけれど、強度などの面を優先しているので正直美味しくはない……かもしれないとはティアラローズ談。

 このお菓子の家をデザインしたのはティアラローズで、工事の指揮を取っている。

 せっせとお菓子を作り組み立てる妖精と、その手伝いに集まってくれた大勢のパティシエやお菓子作りの手伝いをしたい人たち。

 お菓子の家は、大勢の人の助けを借りて少しずつ出来上がってきている。



 ――でも、食べたくなっちゃう気持ちはすごくわかる!


 正直に言って、お菓子の家はとても美味しそうだ。


「っていうか妖精食べてるじゃない!?」


 よくよく見てみると、作ったお菓子の家をお菓子の妖精自ら『うわあぁ、美味しそう!』と言ってモグモグしているではないか。

 食べたところはすぐに修復しているのだけれど、その都度『こうした方が美味しいかも!』と改良も重ねているのがすごい。


「……とはいえ、邪魔したら駄目ね。私たちが食べるお菓子は、ティアラ様に作ってもらいましょ」

「あー!」


 アカリはハルカのおでこにキスをして、王城へ戻った。



 ***



「我が名はルチアローズ! マリンフォレストの騎士(きち)である! とおー!」

「うぅぅっ、やられ……た……っ」


 ルチアローズがおもちゃの剣を振りかざすと、レヴィがばたりと倒れてみせた。騎士にやられた悪者役だ。

 騎士ごっこに付き合ってルチアローズと遊んでいるだけなのだが、白目で倒れたレヴィを見てさすがのルチアローズも怖がっている。やりすぎだ。


 すぐ近くの芝生の上では、オリヴィアがシュティルカとシュティリオと一緒におもちゃで遊んでいる。


「はあぁぁ~、二人ともとってもいい子だわ! さすがはティアラローズ様とアクアスティード陛下のお子様っ!」


 大人しくボールを転がしている二人を見て、オリヴィアは天にも昇る気持ちだ。


「オリヴィア、少し休憩にしましょう。ティータイムの準備をいたします」

「そうね、お願いするわ」


 レヴィが準備をしている間に、オリヴィアは子どもたちの手を洗ってティーテーブルまで移動する。


 オリヴィアは空を仰いで、一息ついた。


「ティアラローズ様は、今頃お菓子の家作りかしら」


 楽しそうだと思っていたら、レヴィが紅茶と一緒に小さなお菓子の家を持ってきた。どうやら作ってくれたようだ。


「わー、お菓子のおうち!」

「ありがとう、レヴィ」

「オリヴィアの執事ですから、これくらい当然です」


 クッキーやチョコレートで作られたお菓子の家はとても可愛くて、ルチアローズやシュティルカとシュティリオに大人気だった。



 ***



 作っては食べるを繰り返すお菓子の妖精たちに、ティアラローズは頭を抱えていた。


「いえ、その度にお菓子が美味しくなってるのだから……これはきっといいことなんだわ」


 その分お菓子の家の完成が遠のいたとしても。

 ちなみにお菓子の家が完成するまでの間、お菓子の妖精たちはティアラローズの部屋で寝泊まりをしている。


『ん~壁のチョコレート、美味っ!』

『こっちの窓枠は、ココア味にしてもいいかも!』

『それいいねー!』


 お菓子の妖精はティアラローズの苦労を知ってか知らずか、欲望のままにお菓子の家を食べていっている。


「これは完成までしばらくかかりそうだね」

「アクア……せっかく街中のいい土地を用意していただいたのに、すみません」

「それは気にしなくていいよ。街中に妖精が住んでいたら、それだけで人々に活気が生まれるからね」


 だからお菓子の家の完成も急がずゆっくりでいいと、アクアスティードは微笑む。


「ありがとうございます」

 ――そうよね、せっかくだから素敵なお家がいいものね。


 ただ、完成しても食べては作り直し……が繰り返されそうだけれど。


「……でも、待って」

「ティアラ?」

「あの子たちは、きっと完成しても食べて作り直してを繰り返すわ……」


 ティアラローズの言葉を聞き、それは否定できないなとアクアスティードは思う。けれど、そういった自由も含めて妖精だ。

 しかしティアラローズの考えは、アクアスティードと違うところにあった。


「つまりこのお菓子の家は、常にスイーツの最先端……!? 妖精たちはお菓子作りが上手だし、いろいろな人のところにいって一緒にお菓子を作っている……」


 生まれたばかりのお菓子の妖精だが、多くの人と関わることでお菓子に関する知識や腕が爆速で上がっていっているのだ。

 その事実に辿り着いたティアラローズは、お菓子の家がより一層楽しみになった。そして可能であれば、毎日のように食べに来てみたい……とも。



 ***



 お菓子の家は妖精たちに任せて、ティアラローズとアクアスティードは王城に戻ってきた。子どもたちは、まだオリヴィアが面倒を見てくれている。

 ティアラローズの部屋には休憩をしているお菓子の妖精がいるので、アクアスティードの自室にやってきた。


「お茶を入れるから、座っていて」

「それならわたくしが――」

「いいから。ティアラはお菓子の家の指示で疲れてるんだから、ゆっくりして」


 問答無用でソファに座らせられてしまったので、ティアラローズは大人しく甘えることにした。


 ――アクアの自室、久しぶりに入ったわ。

 普段はティアラローズの部屋にいるので、アクアスティードの部屋に入る機会はあまりないのだ。


 ティアラローズの部屋は子どものおもちゃがたくさんあるけれど、アクアスティードの部屋は片付いていてシンプルだ。

 大人の男性の部屋……という感じで、相手は夫だというのになんだかいつもよりドキドキしてしまう。


「お待たせ」

「ありがとうございます」


 アクアスティードの淹れてくれた紅茶を飲んで、肩の力を抜く。


「アクア……いろいろと、ありがとうございました」

「うん?」

「……猫になってしまったことや、その際のわたくしの公務のスケジュール。それから、お菓子の妖精たちのことも」


 今回はアクアスティードにたくさん助けてもらった。

 ティアラローズはそのお礼を告げたかったのだが、アクアスティードにとってそれは当然のことなので、礼なんて必要ない。


 というより。


「どちらかといえば、すべての原因は星空の魔力だし……私が謝罪するべきだ」

「いいえ! それはアクアのせいではありません!!」


 きっぱり反論してきたティアラローズに、アクアスティードは笑う。


「なら、ティアラのせいだっていうことも一つもないね」

「あ……」


 アクアスティードの返しに、反論できなくなってしまった。


「ただ……さすがに今回は焦ったよ」

「え?」

「リリアージュ様の意識のない怪物になるという前例があったからね。ティアラの前では平常心を心掛けたけど、気が気じゃなかったよ」


 素直に話して気が抜けたからか、アクアスティードはティアラローズの肩に頭を寄りかからせる。

 だからこうして隣で笑ってくれているだけで、今は何より嬉しくて幸せなのだとアクアスティードが話してくれた。


 ――アクアは私が猫になってすぐ、怪物になってしまう可能性を考えてくれていたのね。


 誰よりも、自分よりも、ティアラローズのことを考えてくれていた。

 朝早く、夜が遅かったのも……すべて、ティアラローズのため。そう思い返すと、アクアスティードのことが愛おしくて仕方がなくなる。


 ティアラローズは寄りかかっているアクアスティードのことをぎゅっと抱きしめた。


「ありがとうごいます、アクア。わたくし、自分のことだというのに……危機管理が足りませんでしたね」


 アクアスティードの隣にいると、真綿で包まれたような気持ちになる。いつもいつも、ティアラローズが気づく前にそっと助けてくれる。


「別にいい。ティアラのことは、私が守ると決めているから。むしろ、油断しきってくれたっていいくらいだ」


 くすりと笑って、アクアスティードはティアラローズの前髪を指先で持ち上げて、あらわになった額にキスを落とす。

 そのまま鼻先、こめかみ、頬と触れて、最後に唇へ辿りつく。

 ティアラローズが体の力を抜くと、簡単にソファへ押し倒されてしまった。


「ん……っ」


 腕を伸ばしてアクアスティードの背中を抱きしめ、キスを受け入れる。優しいキスは深さを増して、甘くなっていく。


「あく、んっ」

「……ごめんね、喋る余裕はあげられそうにない」

「――っ!」


 唇が離れて、けれど触れ合うほど近い距離でアクアスティードが言葉を発して、ぞくりとしたものがティアラローズの体を駆け抜ける。

 細められたアクアスティードの金色の瞳と目が合って、ドキドキする心臓の鼓動は一気に加速していく。


 ここ最近は猫になってしまったり、アカリが訪ねてきたりと……二人でゆっくりする時間はいつもより少なかったかもしれないとティアラローズは思い返す。


「猫のティアラも可愛いけど、さすがにこんなことはできないからね」

「そ、それはっ、んっ」


 ティアラローズが恥ずかしくなって反論しようとしたけれど、あっさりと再びアクアスティードに口を塞がれてしまった。

 本当に、喋ることがままならない。


 ――アクアに全部、食べられてしまいそう。

 けれど、相手を求めているのは自分だって同じだ。

 ティアラローズはアクアスティードに強く抱きついて、深いキスに応えた。

ここで一区切りです。

お付き合いありがとうございました!

少ししたらまた連載開始しますので、そのときはまたお付き合いいただけると嬉しいです。


さて、コミカライズの宣伝を少し。

12月1日に、コミック9巻が発売します!

今回も私が書きおろしたものを、ほしな先生が描きおろし漫画にしてくださっています!

小説には出していないアクアスティードのエピソードなので、楽しんでいただけるのではないかな……と思っております!(気になっていた方もいるかも?)

どうぞよろしくお願いします。

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