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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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14. 愛し愛され幸せに

 マリンフォレストに新たな妖精が誕生したことは、国民に一気に広がった。というのも、お菓子の妖精たちが街へ行ってお菓子好きの人たちに祝福をしていったからだ。

 パティシエ姿の可愛らしい妖精はすぐに受け入れられ、人間と妖精が一緒にお菓子を作る光景もよく見られるようになった。


 ティアラローズはといえば、お菓子の妖精に星空の魔力を定期的に渡すので魔力が安定した。それにより、人間と猫、自在に姿を変えられるようになった。

 ちなみにこの星空の魔力は、お菓子作りに使われるというティアラローズとお菓子の妖精らしい楽しいサイクルだ。

 最近は、猫の姿でアクアスティードの膝に乗って甘やかしてもらうのがお気に入りだったりする。



「ティアラ、ブラッシングしていい?」

『にゃ』


 アクアスティードの問いに頷いて、猫のティアラローズはソファに転がる。ブラッシングは気持ちがいいので、いつまででもしていてほしい。

 優しく、でもちょっと力強くブラッシングをされている間はいいのだが――実は問題が一つある。

 ダダダッと足音が聞こえ、ティアラローズの耳がぴくりと動く。


 ――来た!


「お母さま~!」


 部屋の扉を開けて入ってきたのは、ルチアローズだ。彼女も、猫のティアラローズが好きな一人。

 白くてもふもふな猫を抱っこしたいと、大きな目をキラキラさせている。

 ちなみにブラッシングをしたいという申し出があったときにしてもらったら、思いのほか力が強くて大変な目にあったのは内緒だ。


 なので、何かある前にティアラローズは自分からルチアローズにすりよっていく。そうすると嬉しいらしく、顔をへらりと笑ってくれる。


「お母さまかわいー! 騎士(きち)になって守ってあげる!」

『とっても頼もしいわね、ルチア』

「えへへ」


 ティアラローズの言葉に照れて、ルチアローズは剣を振り回す仕草をして見せる。普段騎士の鍛錬などを見ているせいか、そこそこ様になっているのがすごい。


 ――ルチアの将来のこと、ちゃんと考えないといけないわね。

 女性の騎士がいないわけではないが、王女の騎士は聞いたことがない。反対するつもりはないけれど、きっと厳しい道のりだろう。


 ルチアローズのエア剣技を見ていると、再びタタタタタッと走ってくる音が聞こえてきた。今度は大人のようだ。


 ――アカリ様かしら?


 走ってくる大人といえば、アカリ以外に考えられない。

 それか、緊急事態が起きてエリオットか騎士が訪ねてくるようなときだろうか。


 全員が扉の方に視線を向けると、予想と違い見張りの騎士との口論のような声が聞こえてきた。


「ですから、すぐにでもティアラとアクアに会いたいんです!」

「訪問のお約束は聞いていませんし、あなたの身分もわかりません。申し訳ないですが、同行していただきます」

「そんなぁ……」


 ――アカリ様じゃない?


 どちらかというと、高く可愛らしい声。

 部屋に入りたいけれど、騎士に止められてしまっているようだ。今の時間、タルモも外に立っているはずなので、ティアラローズと親しい間柄の人が訪ねてきたわけではないようだ。


 ティアラローズは人間の姿に戻り、ソファに座り直す。


「騎士に任せておけば対処してくれるよ」


 だから気にしなくていいし、あとで報告があるだろうとアクアスティードが言う。

 ティアラローズとしてもそれでよくはあるのだが、扉の外から聞こえてきた声はどこか聞き覚えのあるもので……頭を悩ませる。


「それはそうなのですが、あの声……ちょっと違和感があるというか……あ! リリア様の声じゃありませんか?」

「リリアージュ様の?」


 言われてみれば、どこか感じが違うように思うが確かにリリアージュの声だとアクアスティードも思う。


「見てくるから、ティアラは座ってて」

「はい」


 アクアスティードが確認しに扉へ行くと、「アクア!」とすぐに元気な声が返ってきた。そして一緒に、「助かったよ」というフェレスの声も。


「やっぱりリリア様だったのね」

「わんちゃん!」

「……リリア様よ、ルチア」

「リリア様!」

「そう、上手ね」


 リリアの名前をちゃんと呼べたことを褒めると、ルチアローズはえへへとはにかむ。


「ご挨拶をしましょうね」

「はい!」


 ティアラローズとルチアローズがソファから立ち上がると、ちょうどアクアスティードたちが部屋へ入ってきた。

 しかしそこに、しらない女の子が一人。


「……?」


 記憶にない人物なので、おそらく初対面。

 しかしその女の子は、ティアラローズを見ると表情をぱああぁっと輝かせてこっちに駆け寄ってきた。


「ティアラ……っ!」

「え……っ!?」


 感極まっているといった様子の彼女が、ティアラローズに抱きついてきた。背はティアラローズより少し低いくらいの、黒髪の女の子。

 いったい何事と思い扉の方を見ると、アクアスティードとフェレスが二人そろって嬉しそうに笑っている。


「え……っと……?」


 すると、その答えは抱きついてきた女の子から返ってきた。


「わたしです、ティアラ!」

「その声……って、え、リリア様!?」

「はいっ!」



 正解ですと、とびきりの笑顔を見せたリリアージュ。

 ぱっちりとした瞳に、くるくるっと天然パーマのかかった黒のロングヘア。紫色のドレスはレースが幾重にもなっていて、彼女の印象を柔らかくしている。



「昼寝から起きたら、なぜか人間の姿に戻っていたんです! それで、フェレスと一緒に慌ててティアラに会いにきたんですよ」


 リリアージュがことのいきさつを説明してくれる。

 人間の姿に戻ったのは、おそらくティアラローズがお菓子の妖精を作り、星空の魔力を渡して自身の魔力を上手く調整できるようになったからだとリリアージュは話す。

 ティアラローズの星空の指輪は、リリアージュとフェレスの力を安定させる役割も持っている。そのため、ティアラローズと同じようにリリアージュも安定したのだろう。


「人間に戻るのはもう、あきらめていたんです。それなのに、こんな奇跡……ありがとう、ティアラ。あなたはわたしの恩人です」

「……リリアージュ様」


 リリアージュの宝石みたいに綺麗な瞳に涙が浮かぶのを見て、ティアラローズも目じりがじんわりとする。

 ずっとずっと怪物の姿のまま、さらに地下に封印されていたときは、大好きな人と会話をすることもできないまま――ずっと寂しく過ごしてきたリリアージュ。

 人間の、本来の姿で触れ合うことができるのはとびきり嬉しいだろう。



 紅茶を用意して落ち着くと、ティアラローズたちはお菓子の妖精についての話――というよりも、再確認を始めた。


「お菓子の妖精が誕生したことで、私たち四人の魔力はとても安定しているね。ティアラローズが魔力を渡し忘れでもしなければ、ほぼ問題はないだろう」

「はい」


 フェレスの言葉に、ティアラローズは頷く。

 お菓子の妖精の数は少ないけれど、これからお菓子を作ると生まれてくるのならば……数が増えるのもあっという間だろう。


 今も実は、部屋の窓辺でお菓子の妖精はクッキーを食べながらのんびりしていたりする。


『大丈夫、王様が忘れてたらもらいに行くから!』

『魔力はお菓子を作るのに大切なの~』


 お菓子の妖精はテンションが高いようで、製菓道具をぶんぶん振っている。木べらを持って魔力を取り立てにきてくれるのかな? と考えると、なんだか可愛い。


「ありがとう、とっても助かるわ。……でも」

『?』


 ティアラローズはしどろもどろしつつ、妖精を見る。


「わたくしを王様と呼ぶのはやめてもらいたいというか……」

『えぇ……』


 さすがに誰かれ構わず大勢の前で『王様~!』と呼ばれるわけにはいかない。

 国王であるアクアスティードの妃でもあるので、国民たちが混乱してしまう。それに、ティアラローズ自身も王としての自覚があまりない。


 ――猫になったら瞳の色は金色になるけれど……今は普段通りの水色だもの。


 ティアラローズが理由を説明すると、多少のブーイングはありつつも妖精たちは了承してくれた。


『でもでも、猫のときは本当に王様だから王様って呼ぶよ!』

『これは譲れないっ!!』

『猫のティアラは私たちの王様!』


 お菓子の妖精が製菓道具でびしぃっとこちらを指してきた。


「わかったわ。それくらいなら、まあ……」


 猫の姿で王様と呼ばれるくらいなら、周囲に変な噂などは流れないだろう。

 ティアラローズが了承すると、妖精たちは『やったぁ~!』と踊り出す。やはり自分たちの王様がいるということは、嬉しいのだろう。



 次に、フェレスが口を開いた。


「私たちは数ヶ月ほどこのまま滞在して、そのあとまたマリンフォレストと……周辺諸国を旅してみようと思うんだ」


 しばらく滞在するのは、星空の王の力が継続的にきちんと安定するかを見るためと……ティアラローズとアクアスティードの子どもたちと交流を持ちたいからだ。

 孫を可愛がるおじいちゃんとおばあちゃんだ。


「初代国王に国を見られるというのは、なんともこそばゆいものですね」

「そうかい? 私はとても誇らしいよ」


 もっといろいろなものを見てみたいし、これからの国の発展を楽しみにしているとフェレスが言ってくれる。


「それと……私たちが帰ってきたのは、二人の状態を見たかったというのもあるんだ」


 星空の王の魔力がティアラローズとアクアスティードにどのように作用しているか、経過を見るには数年が必要だったのだ。

 結果として――アクアスティードは星空の王になったことにより、その魔力はどんどん強くなっていった。身体能力の面も、以前よりかなり伸びているはずだ。

 ティアラローズはアクアスティードから星空の王の指輪を通して魔力を受け取るだけなので別段変わりはないが、猫になってしまうという現象が起こった。


 けれど一番大きな変化は――二人が老けていないということだろうか。


「私とリリアを見ればわかるように、星空の力は人間という理から簡単にはずれてしまう。ただ、試していないから――死というものがあるかないかは、私たちにもわからない」


 不老不死なのか、ただ不老であるだけなのか。

 それを試す必要がないということは、きっと不幸中の幸いなのだろう。


「恐ろしいかい?」


 静かに紡がれたフェレスの言葉に返事をしたのは、ティアラローズだ。


「いいえ。わたくしはマリンフォレストの王妃です。アクアの隣に立つと決めたときから、王族としての覚悟はとうにできております」

「……そうだったね」


 真っ直ぐ告げたティアラローズの言葉に、フェレスは微笑む。

 以前も、フェレスと会ったときにティアラローズは自身の覚悟を述べている。それは今も揺らぐことなく、心にある。


 リリアージュがティアラローズの手を取り、「ありがとう」と礼を述べた。


「フェレスが造った国を愛してくれたこと、感謝しかありません」

「素敵な国をありがとうございます、リリア様。フェレス殿下」

「ティアラ……!」


 飛びついてきたリリアージュをぎゅっと抱きしめて、ティアラローズは笑う。リリアージュは、小さな怪物だったときの癖がまだ抜けていないようで、体が先に飛びついてしまうようだ。

 けれど、そんな彼女の温もりが温くて好きだなとティアラローズは思った。

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