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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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12. お菓子を作って落ち着こう

 森の書庫で得た情報から、ティアラローズの花に魔力を注ぎ新たな妖精を誕生させることにした。

 鉢植えのティアラローズの花が部屋に用意されたのを見て、ティアラローズは少し緊張してしまう。上手くいくだろうか……と。


「はああぁ、まさか新たな妖精の誕生に立ち会うことができるなんて! わたくし、わたくし……っ!」

「お花の妖精なんて、可愛いに決まってますよね~!」

「オリヴィア様!? アカリ様も、落ち着いてくださいませ」


 ティアラローズの花の前ではしゃぐ二人を見ると、緊張していたのが馬鹿らしくなってしまう。


 ――もっと肩の力を抜いた方がいいわね。


 ふうと息をついて、ティアラローズもアカリたちの横に行って花の前でしゃがむ。

 綺麗な大輪の花はいつ見ても美しい。


「……早く妖精に会ってみたいわね」

「となれば、することは一つ! ですねっ!」


 アカリが「さあさあ」とティアラローズの背中をぐいぐい押してくる。背中を押しても魔力が出るわけではないのだが、そこは気分の問題のようだ。


「花に魔力を……というのは難しそうな気もしますが……お菓子作りのときと同じ感じにすればいいのかしら?」


 対象があって、そこに魔力を込めるという点では同じだ。

 おそるおそる星空の魔力をティアラローズの花に込めると、少しだけ体が軽くなったような感覚があった。


 ――なるほど! こんな風に日常的に魔力を妖精に渡せるなら、猫になることもなくなりそう。


 ティアラローズの花へ魔力を注ぐのも、お菓子作りと同じ要領なのでそこまで難しくない。

 大きな魔力のコントロールは上手くいかなかったけれど、こっちが上手くいきそうなのでティアラローズのテンションが上がってくる。


「いい調子です、ティアラ様!」

「さすが先輩っ!」


 魔法に長けているアカリが魔力の流れなどを見てくれ、オリヴィアは応援に徹している。


「どんどん魔力を込めるわ!」

「いけいけティアラ様~っ!」



 ――と、盛り上がっていたものの。


「いくら魔力を流し込んでも何も起こらないわ……」


 体の中の魔力が落ち着いたのはいいことだが、妖精が生まれる気配はまったくない。

 やり方が間違っていたのか、それとも単純にまだまだ魔力が足りず反応がないだけなのか。判断がつかず、困ってしまう。


「当初の予定だと、私はもう花の妖精に祝福をもらっているはずだったのに!」

「アカリ様いつのまにそんな作戦を……」


 しかしオリヴィアもギクリと肩が跳ねていたので、花の妖精に祝福してもらいたいと考えているのだろう。

 二人の気持ちは、ティアラローズだってよくわかる。妖精に祝福してもらえるのは嬉しいし、仲良くなれたらもっと嬉しい。


「アクアからもあまり無理しないように言われているし……今日はこれくらいにしておきましょう」

「それがいいです。今は魔力も落ち着いていますし、明日以降またやってみましょう」

「ええ」


 オリヴィアと明日以降のスケジュールを確認し、休憩もしっかりとれる予定を組んだ。

 今日は難しかったけれど、アクアスティードも空いている日は立ち会うと言ってくれているので心強い。


「あ、夕焼けが綺麗です――あっ!」

「アカリ様?」

「私、ティアラ様のお菓子のお店に行きたいんでした!」


 思い出した! と、アカリが手を叩く。

 王城に来る間も、来てからも、いろいろな場所でティアラローズのスイーツレストランの噂を聞いていた。その度に、食べたくて食べたくてしかたがなかったのだ。


 行きたいと腕をぶんぶんさせるアカリを見て、さてどうしたものかとティアラローズは悩む。

 ティアラローズは毎日足を運んだりしていないけれど、お店の経営状態は毎日連絡が来ているので把握している。一言で言うと、満員で行列ができていて個室も予約が埋まっている。


 ――アカリ様、突然くるから……。

 せめて連絡をしてくれたら席も用意できたのにと、ティアラローズは思う。


 とはいえせっかく持てた自分のお店なので、招待したい。

 どうしようかとティアラローズが考えていると、突如現れたレヴィが「閉店後にしてみては?」とアドバイスをしてくれた。

 レヴィは紅茶を用意してきてくれたようだ。


「私でよければ手配させていただきます」

「……じゃあ、お願いしようかしら」

「きゃー、やったぁ~! 楽しみ!」


 ティアラローズがレヴィの提案に頷くと、アカリがジャンプをして喜んでいる。よほどお店に行ってみたかったのだろう。


「ですが閉店後なので、パティシエたちにあまり無理は――あ」

「?」


 ティアラがぽんと手を打ったのを見て、アカリとオリヴィアが首を傾げる。レヴィはすでに店舗に向かったようで、いなくなっている。


「もしよければ……わたくしが作ってもいいですか? 雇っているパティシエのようにはいきませんが、お店で出しているスイーツは作れるので」


 ここ最近は忙しい日々が続き、まったくスイーツ作りができていなかった。

 ティアラローズは食べるのが大好きだが、作るのも大好きなのだ。お菓子作りができるのであれば、息抜きにもなってちょうどいい。


「もちろん構いません! 私ティアラ様のお菓子大好きですから!」

「わたくしもです」


 二人ともティアラローズのお菓子が食べられると聞いて、にこにこだ。


「なら、腕によりをかけて作らないとね」



 ***



 ティアラローズ、アカリ、オリヴィアの三人で妖精の砂糖菓子へとやってきた。

 昼間は満員の店内も、閉店後はがらんとしていてどこか寂しい。

 お店はちょうど後片付けが終わったところで、スタッフたちと挨拶を交わして中へ入った。


 すると、店内でうごめく影が……。


 ――え、何?

 もしかして泥棒か何かだろうかとティアラローズは一瞬身構えたが、すぐに犯人がわかった。


『いい匂いがする~!』

『お菓子食べたいのに~!』

『こないだ行ったとき、ティアラいなかったもんね』

『めーあんだったのにねー!』


 店内のテーブルの上で、森の妖精たちがきゃらきゃら楽しく話をしているところだった。どうやらお菓子が食べたいようだ。


「こんなところにいるなんて、驚いたわ。ごきげんよう」

『ティアラだ~~!』


 妖精たちがぱあっと表情を輝かせて、ティアラローズの下に集まってくる。


「わあっ、妖精だ~! 可愛い~~!」

『知ってる、ティアラの友達でしょ?』

「そう、大親友のアカリよ!」

『大親友だって、すごい~!』


 アカリがテンションを上げて、妖精と仲良くなるために握手を求めたりしている。

 森の妖精はあまり人と付き合いはしないのだが、ティアラローズの友達――大親友ということで、多少友好的に接してもらえたらしい。

 オリヴィアは悪役令嬢ゆえに妖精に嫌われているので、そっと遠くから鼻をハンカチで押さえつつ見守っている。



「……さて。妖精たちの分も必要だから、気合を入れて作らないとね」

『やったぁ~!』


 ティアラローズはエプロンをつけ、さっそく厨房に行く。

 ここはティアラローズのお店なので、自由に使うことができる。できると言っても――営業時間中と仕込みのときは邪魔になってしまうので、使えるのは夜だけだ。

 さらに今は油断していると猫になるので、人間でいられるうちにスイーツの作りだめでもしたいくらいだ。


 ――何を作ろうかしら。

 ケーキ、マカロン、シュークリーム、焼き菓子? 作りたいものがたくさんあって迷ってしまう。


「でも、せっかくお店の厨房を使っているのだし……少し豪華なものに挑戦してもいいかもしれないわね」


 お店ではスイーツのコースを出している。

 さすがに今フルスイーツコースを用意することはできないが、簡単なものを数品くらいは用意できる。


「ケーキに、焼き菓子に……それから見た目が華やかなパフェもいいわね!」


 チョコレート細工を添えてしまえば、壊したくない芸術品のようになる。


 ティアラローズがるんるん気分でスイーツを作っていると、「ティアラ」と声をかけられた。見ると、厨房の入り口にアクアスティードが立っている。


「アクア!」

「レヴィからここにいると聞いてね。仕事が終わったから、来てみたんだ」

「お疲れ様です。どうぞ、座ってください」

「ありがとう」


 ティアラローズは簡易的な丸椅子をアクアスティードに勧め、今日あった出来事を話す。


「花に魔力を注ぐことはできたんですが、妖精になるほど……と言われると、さっぱりわからなくて」

「前例がないと、どの程度必要かもわからないからな……」


 アクアスティードも同じように悩み、考えてくれる。


 ――アクアが一緒だというだけで、こんなにも心強い。

 幸せで、胸のあたりが温かくなる。スイーツ作りも気合がはいる、というものだ。


 ――そうだ、今は星空の魔力がたくさんあるから……いつもよりすごいスイーツが作れるかもしれないわ!


 ティアラローズは普段からお菓子作りの際に自分の魔力を込めていて、体力回復や身体能力アップといった恩恵をつけることができる。

 元々持つ自分の少ない魔力でもそれだけのことができたのだから、星空の魔力を使ったら……いったいどれだけすごい効果を得ることができるのか。


 ――もしかしたら、体調不良や風邪がよくなったりするかもしれないわね。


 なんてことを考えながら、魔力を使う。

 今作っているのは苺たっぷりのショートケーキだ。スポンジは焼いているところなので、今は生クリームを作っている。


「ここに星空の魔力をちょっとずつ流し込んで……混ぜる」


 ツノが立つくらいまで混ぜて、スポンジが焼けたらデコレーションをしていく。スポンジの間には苺ムースを入れて、上部にはたくさんの苺とチョコレート細工。

 最後にたっぷり魔力を込めたら、ティアラローズ特製の苺ケーキが完成だ。


「よーし、上手くでき――」


 ――た。

 そう言い終わる前に、ティアラローズの目の前で思いもよらないことが起きた。この現象を、なんといったらいいのだろうか。

 アクアスティードも目を見開き、椅子から立ち上がってティアラローズの隣へやってきた。


 できあがったケーキから星が溢れた。


『んぅ~、いい匂い』


 ぱっちり開いた大きな瞳は花の輝きを放ち、頭の上には苺のワッペンのついたパティシエ帽子。胸元にはハニーピンクのタイが結ばれている。


 ティアラローズのお菓子から生まれた――新たな妖精だ。

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