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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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11. 森の書庫で読書

『わ~いい匂い!』

『あそこにあるのって、全部お菓子なんでしょ? 食べたいな~!』


 わくわくそわそわした森の妖精たちが、ティアラローズのお店『妖精の砂糖菓子』を窓の外から覗いていた。

 ティアラローズ以外の人間の前に出たいとは思わないけれど、このお菓子だけはどうにも魅力的に映ってしまう。


 一人の妖精がハッとして、『名案がある!』と声をあげた。


『なになに、何がめーあんなのっ!?』

『聞きた~い!』

『ふっふっふー! お菓子が食べたいなら、ティアラに作ってもらえばいいじゃな~い!』


 高らかに告げられた提案に、ほかの妖精もハッとする。


『なるほど!!』


 全員の声が重なったという。



 ***


 森の妖精たちがティアラローズにお菓子をねだる算段をつけているころ、ティアラローズとアクアスティード、リリアージュはキースの城にいた。

 というのも、リリアージュができると言った『新しい妖精を生み出す』方法がさっぱりわからないからだ。誰もそんな方法は知らず、一番博識そうなクレイルもお手上げで。

 ティアラローズたちは手掛かりを探すべく、キースの城にある森の書庫へやってきたというわけだ。


「新しい妖精ねぇ……」


 キースは森の書庫の本を見つつ、「そんなのあるのか?」と首を傾げている。

 妖精王すら知らないのに、書庫で情報が見つかるのだろうか……と、ティアラローズは不安になる。


『大丈夫です、きっと手掛かりがあるはずです!』

「……そうですね。一生懸命探しましょう!」


 リリアージュの言葉を聞いて、ティアラローズは気合を入れる。二人で手当たり次第の本を読み始めた。



 そんなティアラローズたちを見守りつつ、キースはアクアスティードに目をやる。


「……大丈夫だったのか?」

「ああ。記憶はあやふやだったらしいが、あったことは隠さずに伝えたよ」


 キースが心配したのは、ティアラローズから星空の王の指輪が外れて巨大な猫――怪物へ姿を変えてしまったことだ。

 今は星空の王の指輪をはめ、その上からレースの手袋をつけているのではずれる心配はないだろう。


「ふ~ん。まあ、ならいいが……にしても、新しい妖精ねぇ」

「手探り状態ではあるが、可能性があるならそれに賭けるさ。ほかの方法は、ティアラが妊娠したときに探しつくした」

「それもそうだな」


 キースはハハッと笑うと、一瞬で切り替え真剣な表情になる。


「妖精が生まれる瞬間には、何度も立ち会ってきた。だが、それは例外なくすべて森の妖精だ」


 新しい妖精が突然変異で生まれることは考えにくいだろうと、キースは言う。もしそういったことがあるのであれば、とっくに何例かあってもおかしくないはずだからだ。


「私もほかの妖精は見たことがないな」


 一風変わった妖精でも見たことがあれば可能性を感じたかもしれないが、アクアスティードにもそういった経験はない。


「考えられることというか、もう一つ大事なことがある」

「大事なこと?」

「新たな妖精王は誰かっていう話だ」

「――!」


 当たり前のように妖精王であるキースたちがいるが、新たな妖精が生まれるなら新たな妖精王が必要になってくる。


 ――というか、そもそも。


「妖精王にはどうやってなるんだ?」


 妖精に関しては、わからないことが多すぎる。

 アクアスティードの疑問に、キースは「俺も詳しいわけじゃねえけど……」と頭をかく。


「俺は妖精王として生まれた。まあ、特別な妖精ってやつだ」

「それは興味深いな」


 となると、新たな妖精の王が誕生する――そう考えていいのだろうか。

 しかしそこで、アクアスティードはパールのことを思い出す。


「パール様は確か……三代目の海の妖精王じゃなかったか?」

「そうだ。パールの場合は、そのとき一番力のある海の妖精が王になり……パールという名前を得た」

「なるほど……」


 王として生まれる場合と妖精が王になる場合の二パターンがあるようだ。


「あとは、いったいなんの妖精が生まれるのか――」

『みゃっ(あっ)』

「ティアラ?」


 後ろから可愛い鳴き声がして振り返ると、ティアラローズがもふもふの白猫の姿に変わっていた。



『にゃあぁ(すみません、アクア)』

「大丈夫だよ。ほら、おいで」

『うみゃ』


 アクアスティードはティアラローズを抱き上げて、顎をくすぐる。こうされると気持ちよくて、どうにも表情がとろけてしまう。


 ――今日は妖精のことを知るためにきたのにっ!


 なのにアクアスティードの手が心地よくて、自然と喉がゴロゴロと鳴ってしまう。


『みゃぁっ!(これじゃあポーカーフェイスもできないわっ!)』

「うん?」


 真面目な表情をしていても、喉がゴロゴロ鳴ってはばれてしまう。猫の姿なのでばれていないけれど、ティアラローズの顔は真っ赤だ。


「なんだよ、俺にも触らせろって」

『みゃっ!』


 アクアスティードが抱くティアラローズの頭を、キースの手が撫でる。指先で額をくすぐられ、『みゃっ』と声が出る。

 すると、すかさずアクアスティードの手がキースの手を止める。


「触りすぎだ」

「なんだよ、減るもんでもないしちっとくらいいいだろ」

「減る」


 気付けばアクアスティードとキースの間に火花が散っており、ティアラローズはまた始まってしまった……と苦笑する。

 以前は二人のやりとりに焦ったものだが、さすがにもう慣れっこだ。


 ――でも、わたくしを抱いたまま睨み合わないでほしいわ。


 そんなことを考えていたら、葉の本を読んでいたリリアージュがぴょんっと跳ねた。


『ありましたっ!』

「えっ!?」

「わっ!」


 リリアージュの喜ぶ声に驚いたからか、ティアラローズが人間の姿に戻った。

 猫のティアラローズを抱きしめていたアクアスティードにそのまま横抱きにされてしまい、まだ赤くなっていた顔を見られてしまって少し恥ずかしくなる。


「お、下ります! アクアっ!」

「下りちゃうの? 残念」


 くすりと笑って、アクアスティードがティアラローズを地面に下す。


「って、リリア様! あったんですか!?」

「まさか本当にあるとは……」

『はい! これだと思います』


 ティアラローズがリリアージュの下に駆け寄ると、キースが興味深そうに覗き込んできた。自分の城の書庫なのに、キースはすっかり失念していたらしい。

 キースは葉の本を手に取り、そのタイトルを読み上げる。


「……『幸せの芽吹き』? これが妖精の生まれの本か」


 内容を読んでみると、絵本のような作りになっていた。



 大地が枯れ果て、食べるものがほとんどない大地で暮らす女の子がいました。

 ひもじく辛い毎日に、女の子は泣いてばかり。

 けれど、それは女の子の家族も同じ。妹や弟、それからお父さんとお母さんにお腹いっぱいご飯を食べてもらいたい。

 そんな風に思っていました。

 女の子の楽しみは、荒れた大地に芽吹いた小さな芽に水をあげること。いつか大きくなあれと、遠くの川から水を汲んできていました。

 あるとき、女の子は自分の中の不思議な力に気づきました。

 野菜が育ち、実りのある大地になってほしい……そんな願いを込めたとき、いつもお世話をしていた大切な芽が『森の妖精』になったのです。

 森の妖精は大地に恵みを与え、植物を育て豊かな地を作りました。

 女の子はたくさんの食べ物を手に入れることができ、家族みんなで幸せに暮らしました。



「――めでたしめでたし、か。なんというか、ありきたりな物語だな……」


 キースが呆れたように言うけれど、妖精の生まれうんぬんというより……この事実が本当であるのならば――


「これ、キースの出生の秘密では……」


 いや、秘密なのかはわからないけれど。

 こんな風に知ってしまってよかったのだろうかと、ティアラローズはキースのことを見る。しかし本人は気にしていないのか、けろりとしている。


「そういや、俺が生まれたときは酷い荒れ地だったな! この森にするまで、かなり大変だったのを今でも覚えてる」

『忘れてたじゃないですか……』

「リリア様……」


 思わずツッコミを入れたリリアージュに、ティアラローズも遠い目になる。


「まあ、キースの出生うんぬんは置いておくとして……ようは、この女の子の持つ不思議な力が魔力っていうことだろうね」

『そうです!』


 アクアスティードの言葉に、リリアージュが頷く。


『この絵本の通りに妖精が誕生するのなら……まず、魔力を持っていること。妖精になれる対象があることでしょうか』

「魔力に関しては、きっと問題ないと思います。今も星空の魔力がたんまりありますから」


 なので問題は、妖精になる対象だろう。

 キースは森、クレイルは空、パールは海。

 それぞれ媒介になったであろう対象は想像しやすく、人々の生活に欠かせない大切なものだということがわかる。


「つまり、わたくしにとって大切なものから妖精が生まれる……ということでしょうか?」


 ティアラローズの問いかけに答えたのは、キースだ。


「だろうな。その対象に、お前の魔力を注いでやればいい。上手くいけば、新たな生命が宿り妖精になる……が、生半可な気持ちや魔力じゃ無理だ」


 大好きなものに魔力をいれただけでいいなら、この世界は妖精だらけになっているだろう。それにはティアラローズも同意なので、頷く。


 森、空、海――そしてティアラローズの妖精。

 アクアスティードは、王城や街のいたるところに咲く国花が思い浮かんだ。


「それだったら……ティアラローズの花はどうだろう? あの花はティアラの花から生まれているし、ほかの妖精と同じように自然物でもある」

『それはいいですね! あのお花、とっても綺麗です』

「なら、花に魔力を注ぎまくるしかないな」


 すぐにリリアージュとキースがアクアスティードの案に賛成した。ティアラローズも、花から生まれた妖精はとびきり可愛いだろうと頷いた。


 マリンフォレストの国花――ティアラローズの花。

 ティアラローズの魔力を元に咲いた大輪の花で、可愛らしいピンク色をしている。

 その花びらは甘く、上質の砂糖が実るというなんともティアラローズらしい花なのだ。お菓子づくりにも、鑑賞にもピッタリで愛されている。

 最初こそ管理され王城の庭園などで大切に育てられたが、今ではマリンフォレスト中で見ることができるようになった。


 ――新しい妖精に、会えるかもしれない。

 自分の魔力の問題のためにすることなのだが、ティアラローズの胸はドキドキワクワクしていた。

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