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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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9. 久しぶりの女子会

「んんんん~~、はあぁ……駄目だわ」


 ティアラローズが大きく息をはいて、がくりと項垂れる。その横には白衣姿のキースが立ち、こちらは肩をすくめた。

 何が駄目かというと、ティアラローズの魔力の制御だ。これがどうも、なかなか上手くいっていないのだ。


 小さな魔力であれば問題なくコントロールできるのだが、大きくなると途端に難しくなる。

 アクアスティードとキースの二人に教えてもらってはみたものの、どちらも駄目だった。


「お母さま、元気出して!」

「ルチア……ありがとう」


 ティアラローズはルチアローズをぎゅっと抱きしめて、子どもの見本となるためにも頑張らねば! と思う。


 ――とはいえ、難しいものは難しいのよね。


 魔力の扱いに関しては、おそらくルチアローズの方が上手だろう。というのも、生まれる前から大きな魔力と共にあったということが大きい。

 ティアラローズの場合は、成長したあとに大きな魔力を受け入れるようになった。受け入れるだけならいいが、扱うとなると話が別なわけで。


「ん~、同時に何かほかの手も考えた方がいいかもしれないな」

「そうね」


 キースの言葉に同意しながら、はてさてどうしたものかと頭を悩ませる。


「ま、今はリリアもいることだし……星空の魔力との付き合い方でも聞いてみればいいさ」

「そうね。ゆっくり……とはいかないけれど、いろいろ考えてみるわ」



 ***



 カリカリとペンの走る音と、時折こぼれるため息。

 けれど書類の処理はいつもと変わらぬ早さで進むのだから、さすがとしかいいようがない。


「少し休まれたらいかがですか、アクアスティード様」

「……いや、いや……そうだな」


 側近――エリオットの言葉に頷き、アクアスティードは立ち上がって背伸びをした。

 こうも気分が乗らないのは、ティアラローズの魔法の練習についてだ。なかなか上手くいっておらず、アクアスティードは自分の不甲斐なさを感じていた。

 もっと上手く教えることができれば、と。


 エリオットが紅茶を用意してくれたので、一息つく。


「そういえば本日は、女子会をなさるのだとか?」

「アカリ嬢の提案らしい。そういえば、フィリーネは来れるのか?」


 確か、ティアラローズがアカリにもらった招待状の中にフィリーネの名前もあったはずだとアクアスティードは思い出す。


「はい。私が帰宅してから登城すると言っていましたよ」

「そうか。なら、早く仕事を終わらせないとな」

「助かります」


 エリオットは残りの仕事量を確認し、問題なく終わりそうなことに安堵する。

 屋敷にメイドたちはいるけれど、メインで子守りをしているのはフィリーネだ。エリオットは、こういった機会はゆっくり羽を伸ばしてほしいと思っている。


「しかし、一度泣き出すとなかなか泣き止んでくれないんですよね……。フィリーネだとすぐ泣き止むのですが、私だとなかなか……」


 身体が硬いからいけないのでしょうか? と、エリオットは遠い目をしている。どうやら、子どもに泣かれるのは苦手らしい。

 その問いに、アクアスティードは苦笑する。


「まあ、硬いよりは柔らかい方が寝やすいか」


 アクアスティードの答えには、エリオットも全力で頷く。

 思い返すのは、騎士団に混ざって鍛錬のため遠征をしたときのこと……。村の宿に泊まったのだが、そこのベッドが硬くて辛かったのは今でも覚えている。


「やはり硬いと眠れませんからね……」

「私たちではなかなか母親には敵わないな」

「そうなんですよね。ついつい、お土産で子どもの気を引こうとしてしまいます……」


 なのでコーラルシア邸は子どものおもちゃで溢れかえっている。

 まあ、それはアクアスティードたちも否定はできない。子どもにはなんでも買ってあげたいと思ってしまうし、定期的にラピスラズリの祖父母からおもちゃが届く。


 紅茶を飲み干したアクアスティードは、「よし」と立ち上がる。


「フィリーネが早く来られるように、仕事を片付けてしまおうか」

「はい」



 ***



 急遽アカリが企画した夜の女子会は、早い時間から行われた。

 参加メンバーは、ティアラローズ、アカリ、オリヴィア、フィリーネ、リリアージュ。それからルチアローズとハルカだ。

 用意したお揃いのネグリジェは、ティアラローズが水色、アカリがピンク、オリヴィアが白、フィリーネがクリーム色。リリアージュは首に大きなリボンを巻いている。

 ルチアローズはリボンのネグリジェに身を包み、「可愛い!」とにこにこだ。ハルカはルチアローズの横ですやすや夢の中。


 ベッドの上にはスイーツと果実水が並んでいる。

 スイーツは妖精の砂糖菓子で出しているもので、どれも見た目が華やかで味もティアラローズお墨付きだ。


「女子会も久しぶりですね~!」


 アカリがテンションを上げ、近況を聞いてくる。

 この数年で子どもが生まれ大きくなり、生活はかなり変わったと言っていいだろう。オリヴィアも、ティアラローズの侍女として毎日楽しく過ごしている。


「アカリ様とハルカ君の話も聞かせてくださいませ」


 ティアラローズはアカリに話を振って、どんな様子かを尋ねる。


「ハルトナイツ様が、とってもいいパパをしてくれてるんですよ! 面倒もよく見てくれるし、ご飯も食べさせてくれてお風呂も!」

「へえぇぇ」


 全員が意外だと思ってしまったのは、口に出さない方がいいだろうか。

 アカリ曰く、ハルトナイツ一人ですべてのお世話をこなせるほどになっているのだという。なので、アカリの方が公務が入ってることが多い日もあるのだとか。


「ハルトナイツ殿下が主夫ですわね」

「そうなんですよ~! なのでこれを機に、働く女性が増えてもいいなって思うんです」


 この世界は男が働き女は家を守る、という風潮が強い。

 なのでアカリはその概念を吹っ飛ばせたらいいなと思いながら、ラピスラズリで公務をしているのだと言う。


「アカリ様がすごくまともなことを言ってるわ……」

「ティアラ様、私をなんだと思ってるんですか! これでもいろいろ考えてるんですからね」

「ごめんなさいアカリ様、つい……」


 ティアラローズは謝りながら、「とても素晴らしいです」と微笑む。


「ハルトナイツ殿下の協力がないとできないことですからね」

「そうですね。ハルトナイツ様ったら、私がハルカをあやしてると慌てて「私が抱く!」って言うんですよ~! 可愛いですよね!」

「…………」


 もしや、アカリの子育てが不安だからハルトナイツが率先しているのでは? と思ってしまったけれど、そっと考えなかったことにした。


 アカリはくるりとベッドの上を転がって、隣にいたオリヴィアに突撃する。


「オリヴィア様はどうなんですか? 結婚しないんですか?」

「わたくしですか?」

「アイシラ様はカイルと結婚って、聞きましたよ! そうしたら、次はやっぱり悪役令嬢が幸せになる番じゃないですか?」


 それにオリヴィアももう二十六歳なので、結婚してもおかしくない年だ。


「まあ、私だって無理にとはいいませんよ? オリヴィア様が幸せになるのが一番ですから!」

「ありがとうございます、アカリ様。ひとまず……今の生活が楽しいので、しばらく結婚はいいかもしれません。聖地巡礼だってしたいですし……」

「オリヴィア様らしいですね」


 下手に結婚してしまっては、聖地巡礼ができなくなってしまう。

 近場なら問題ないだろうけれど、ラピスラズリとなると長期不在になってしまう。そうすると、結婚相手はあまりよく思わないかもしれない。


 ――レヴィはどうなのかしら?


 と、ティアラローズは考えてしまう。

 オリヴィアに取ってよき理解者であり、きっとこの世界で一番オリヴィアのことを考えている人物。

 とはいえ二人には身分の壁があるので、難しい。

 オリヴィアが結婚するなら伯爵あたりの次男と言っていたのをティアラローズは聞いている。



 アカリがにやりと笑って、フィリーネを見る。


「――っ!?」


 思わず身構えてしまったフィリーネは、「なんでしょう……?」とわずかに後ずさる。


「いやぁ、エリオットとの結婚生活はどうなのかな……って」


 アカリ的に、ゲームのメインキャラクターたちの暮らしぶりは気になって仕方がないようだ。

 それはティアラローズとオリヴィアも同意なので、アカリを止めなければと思う反面どうしても聞き耳を立ててしまう。


「結婚生活……ですか……。特に変わりはないと思いますけど……」


 何か話すことはあっただろうかと、フィリーネは家でのことを思い浮かべる。

 夫であるエリオットはアクアスティードの側近ということもあり、仕事の時間が不規則になることが多い。

 たまに帰れないこともあるけれど、結婚してからは可能な限り帰宅してくれていることはわかる。フィリーネと家のことを、とても大切にしてくれている。


「ああでも、しょっちゅうおもちゃを買ってくるのはどうにかしてほしいかもしれません」


 そろそろ部屋が子どものおもちゃで溢れかえってしまいそうだと、フィリーネは苦笑する。


「子どもに甘々なパパさんですね~!」


 エリオットらしいと、アカリは笑う。


『みなさんの話を聞いているだけで、とっても楽しいですね』


 今まで聞いているだけだったリリアージュが微笑んで、『いつまでも聞いていたいです』と感想を述べた。


「リリア様はマリンフォレストを巡っていらしたんですよね!? わたくしもマリンフォレストを隅々まで歩きまわりたいですわ……!」

『それは嬉しいです! 街や村はほとんど見て回ったと思いますよ。どこに行っても活気があって、ご飯も美味しくて、楽しかったです』

「あああ~行きたいですわ!」


 マリンフォレスト国内も、ラピスラズリ王国も、それ以外の国もこの世界のすべてに行きたい! と、オリヴィアは瞳を輝かせる。

 確かにこれでは結婚なんて言ってられないかもしれない。


 ティアラローズがくすりと笑うと、「お母さま~」と寝転んでいる背中にルチアローズがのしかかってきた。

 ルチアローズは唇を尖らせていて、どこかつまらなさそうだ。


「あら、退屈だったわね」

「んーん! ……あ! お母さまの指輪、キラキラしてて可愛い!」

「え?」


 ティアラローズの指輪がランプの明りを反射していつもより輝いていたので、ルチアローズはそれに目を奪われてしまったようだ。

 騎士になるとは言いつつも、やはり女の子だけあって綺麗なものも好きなのだろう。


「将来、ルチアに指輪を贈ってくれる素敵な人が現れるわ」


 ティアラローズがそう言うと、「ほんとー?」とルチアローズがへらりと頬を緩める。


「ならいっそ、ハルカに贈らせるわ!」

「アカリ様!!」


 またなんてことを言いだすのだと、ティアラローズが慌てて叱咤する。

 アカリは「冗談ですよ☆」と言っているけれど、どこまで本気かわからない。いや、かなり本気だったに違いない。


「お母さま、つけてみたい~!」

「え?」


 ルチアローズがティアラローズの薬指に手をのばし、星空の王の指輪を抜き取って自分の指に付けてしまった。


「――あ」


 そこにいた全員の声が重なって、その視線が指輪に向けられる。

 そして瞬間、ティアラローズの体が猫に――。


『うにゃああぁっ』


 低く唸るようなティアラローズの声に、緊張が走る。


『いけません、早く指輪を! このままでは怪物になってしまいます!!』

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