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悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される  作者: ぷにちゃん
第13章 妖精の砂糖菓子
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8. アカリ襲来

 ティアラローズの自室にて。ソファには、今は人間姿のティアラローズとリリアージュが座っている。

 日に日に増え続ける星空の王の魔力を制御するために、ティアラローズは魔法の勉強に力を入れることになった。

 初日の講師に名乗り出たのは、アクアスティードとキースだ。


「ばっか、魔法の扱いと言ったら千年以上生きてる俺の方が適任だろ!」

「私はクレイルに教えてもらったので魔法の扱いは得意ですし、何よりティアラのことをよくわかっていますから」


 どちらが講師役を務めるか火花を散らしている。

 ティアラローズとしてはそんな些細なことで喧嘩をしないでほしいのだが、隣にいるリリアージュは楽しそうに笑う。


『ふふっ、キースも丸くなりましたね。とっても楽しそうです』

「……そうですね」


 リリアージュの言葉に、確かに楽しそうだとティアラローズは同意する。

 出会った当初は本気で仲が悪かったので、今こうして互いが認め合っているということはティアラローズにとっても嬉しい。


 さてどうなることやらと見ていると、アクアスティードとキースがこちらにやってきた。


「それぞれ教えることにした」

「俺とアクア、どっちがわかりやすかったか選べ」

「えぇぇっ、わたくしがですか!?」


 まさか自分で選ぶことになるとは思ってもみなかった。

 ティアラローズとしては、いろいろな視点から教えてもらいたいので二人一緒でもいいのだけれど……どうやらそれは許してもらえないようだ。

 苦笑しながら、ティアラローズは「わかりました」と頷いた。



「ということで、まずは講師のアクアスティード先生ですわ!」


 オリヴィアとレヴィが「やるならきっちり!」と、アクアスティードとキースの衣装まで用意していた。

 二人とも慣れない服装のせいか、落ち着かないみたいだ。


「眼鏡は初めてかけたな……」


 アクアスティードは学者のようなきっちりした黒を基調とした服に身を包み、珊瑚で装飾されたチェーン付きの眼鏡をかけている。

 厳しい数学の教師、といった印象を受けるかもしれない。


 そして次に、オリヴィアがキースを見る。


「そして講師のキース先生には、白衣を用意いたしました!」


 イメージとしては、化学の先生……ということらしい。確かに森の妖精王なので、自然学などはキースにピッタリだろう。

 ラフな感じは普段と変わらないけれど、白衣がキースをより知的に見せる。


「わー、すごい」

『二人とも素敵です』


 ティアラローズとリリアージュは思わず拍手をして、普段しない装いの二人に頬を緩める。こんな先生なら、きっと学校も楽しいだろう。

 オリヴィアは誇らしげな顔をしているが、すでに興奮しすぎてハンカチを何枚か替えている。


「それじゃあ、まずは私から」

「はっ、はいっ!」


 教師のアクアスティードが隣に座り、変にドキドキしてしまう。

 ――いつもと服装が違うだけで、こんなにも落ち着かないわ。


「大丈夫だよ、ティアラ。まずは落ち着いて。難しいことは、何もないから」

「はい」


 アクアスティードの言葉に深呼吸をして、ティアラローズは心を落ち着かせる。今までもお菓子を作るときに魔法は使ってきたのだから、基礎くらいはできているはずだ。


「小さい魔力のコントロールなら、お菓子作りでもなれているだろうけど……今日やってみるのは、大きな魔力の扱いだ」


 これを制御できるようになれば、ティアラローズが猫になったりすることも防げるだろう。

 ただ、かなり難しい。

 アクアスティードのように生まれ持ったセンスや才能があれば別かもしれないが、ティアラローズは元々そこまで魔法が得意というわけではない。


 ――ちゃんとできるかしら。


 不安になりつつも、ひとまずやってみなければ始まらない。

 目標は、魔力を暴走させないこと……だろうか。


 まずは、アクアスティードと手を繋いで自分の中の魔力を確認するところから。

 ティアラローズは普段、魔力を意識するということをしない。しかしアクアスティード曰く、戦いに慣れている人は日常的に意識しているらしいし、鍛錬の際にもそういったことをするのだという。


 ティアラローズは静かに目を閉じて、意識を集中させる。

 感覚としては、魔法を使うように。けれど実際に使うわけではない。そのため、なかなか難しいなと思う。


 ――自分の中にある魔力。


 生まれ持った自身のもの。そしてキースとパールからの祝福もティアラローズの中で確かな力になっている。


「ティアラ、ゆっくり深呼吸」

「――! はい」


 集中するあまり息をするのを忘れていた。ふうと大きく息をはいて、もう一度集中し直す。

 すると、自分の中に大きな魔力があることに気づく。


 ――これが、星空の魔力?


 いつも自分が使う魔力とは桁違いに大きくて、確かにこれを意識してコントロールするのは大変だとティアラローズは思う。


 ――というか、できるのかしら?


 この魔力を普段から扱っているアクアスティードたちは、すごいとしか言いようがない。


「魔力を感じました、アクア」

「うん。なら、それを自分の中に留めるイメージをしてみようか」

「はい!」


 ティアラローズが一気に集中力を高め、自分の中にある星空の魔力をコントロールしようとした瞬間――バァン! と、扉が開いた。


「ティアラ様~! 遊びにきましたよ~!」

『にゃぁっ!?(アカリ様!?)』


 突然やってきたアカリに驚いて、ティアラローズは魔力に向けていた集中が切れ猫になってしまった。こればかりは、アカリを恨みたい。


「あれ……っ!? 今、ティアラ様がいたような気がしたんですけど……って、アクア様格好良いですね!」


 きょろきょろ部屋の中を見回しつつも、アカリはすぐにアクアスティードの服装に目を光らせる。


「しかもキースは白衣!? え、待って何このイベント! 私知らないんだけど!!」


 めちゃくちゃにテンションを上げるアカリは止まる気配がなく、全員が頭を抱えたくなり――しかし、「あー」という声で視線を下げる。

 見ると、アカリの後ろ……ドレスに隠れるようにして、小さな男の子がいた。


「そうだった、今日は息子と一緒に来たんですよ! ハルカ、ご挨拶して!」

「あ~」

「えらいでちゅね~!」



 このゲームの初代ヒロイン、アカリ・ラピスラズリ・ラクトムート。

 黒いストレートロングの髪と、黒の瞳。日本人の彼女はこの世界に転移し、ゲームのヒロインとしていろいろありつつもハルトナイツと結ばれた。

 見てわかる通りテンションおばけのような彼女は、常に自分が好きなように行動する。けれど、その行動力に救われることもしばしば。

 今ではティアラローズの親友だ。



 そしてその息子、ハルカ・ラピスラズリ・ラクトムート。

 ゆるいウェーブのかかった髪は母親ゆずりの黒色で、瞳は父親ゆずりの宝石みたいな青色。アカリとハルトナイツの第一子で、二歳になったばかりだ。

 両親と違って人見知りのようで、アカリのドレスの後ろに隠れている。



「アカリ嬢、来るなら連絡をしてくれ。騎士とメイドも困っているではないか……」


 扉の所を見ると、見張りの騎士と案内をしたメイドが顔面蒼白になっている。


「すみませんアクア様。驚かせようと思って!」

「そんなサプライズはいらない……」


 アクアスティードは疲れた様子でアカリに注意しつつ、挨拶を交わす。

 それから部屋にいるほかのメンバー、キース、オリヴィア、レヴィ、リリアージュも挨拶をし、久しぶりの再会を喜んだ。

 ティアラローズが最後にアカリと会ったのは、ハルカが生まれたときなので二年ほど前になる。


「それで、ハルトナイツ殿下は?」

「ラピスラズリの仕事があるので、残念ながら私たちだけです」

「……そうか」


 子どもが生まれても、相変わらず自由にやっているようだ。今頃ハルトナイツは一人で胃を痛めているか、はたまた一人の時間を楽しんでいるのか……。


「きゃー、オリヴィア様も久しぶりです! 会いたかったぁ!」


 アカリがオリヴィアに抱き着くと、「わたくしもですわ!」とオリヴィアが笑う。

 そしてしゃがんで、ハルカにも挨拶をしようとしてハンカチを赤で濡らしている。


「――っ!?」

「あああぁぁ、ごめんなさいわたくしったら!」


 一瞬で赤に染まったハンカチを見て、ハルカが声を立てずに泣いている。よほど怖かったのだろう。

 そんな反応が新鮮だなと思ってしまったオリヴィアは、そっと顔を逸らして反省をした。


「大丈夫よ、ハルカ。ふふっ、オリヴィア様に気に入ってもらえたわね」

「アカリ様……」


 アカリはハルカを抱き上げて、改めて首を傾げる。


「それで、アクア様とキースはなんのイベントですか?」

「…………」


 アカリの問いに、全員がさてどうしようと頭の中で考えてしまった。

 事情を伝えるとややこしくなりそうだなとか、そんなことを思ってしまったわけだ。とはいえ、さすがに黙っているわけにはいかないだろう。


 アクアスティードが口を開こうとしたら、タイミングがいいのか悪いのか、ティアラローズが猫から人間に戻ってしまった。


「あ」


 その場にいた全員の声が、ハモった。


「えっ、可愛い猫ちゃんがティアラ様になった! てっきりリリア様のお友達の猫ちゃんだと思って、あとで抱っこしたいな~とか思っていたら! まさかの! ティアラ様!!」


 アカリのテンションがさらに上がったのを見て、ティアラローズはアクアスティードと顔を見合わせ苦笑する。


「……事情をお話しいたします」




 テーブルに並べられたスイーツと、紅茶の香り。

 一息ついて落ち着いたころには、一通りの説明が終わった。


 膝の上ですやすや眠るハルカの頭を撫でながら、アカリはわくわくと瞳を輝かせている。

 ティアラローズはそんなアカリを見て、やはりこうなったかと笑う。


「……それで、魔力を安定させられないかと考えて練習をしているところだったの」

「そうだったんですね」


 アカリは「なるほど~!」と頷いた。


「でも、猫になれるなんて羨ましいです! 私も猫になりたいなぁ」

「アカリ様、そう簡単な問題ではないんですよ……」

「それはまあ、わかってますけど……。でも、憧れちゃいますよ。猫になって、好きな人に飼ってもらうのも楽しくないですか?」


 まるで漫画のようなことを言うけれど、実際そうなりかけてしまったのでティアラローズとしては笑えない。


 ――でも、アカリ様が猫になったら大変そうね。


 アカリが猫だったら、本当の本当に自由気ままに過ごすだろう。

 人間の通れない道を歩いてみたり、気のすむまで日向ぼっこを楽しんだり、夜は猫の集会があるからとベッドを抜け出したり。

 アカリ以外の人間が振り回されて大変だ。


「それなら、私も協力します! これでも魔法は得意ですからね!」


 ぐっと拳を握るアカリに、ティアラローズは微笑んだ。

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